アクセスカウンタ

浅井信雄の「記憶の細道」  

プロフィール

ブログ名
浅井信雄の「記憶の細道」  
ブログ紹介
@ジャーナリストと研究者の二本道を歩んだ約半世紀の記憶をたどりつつ、いま伝えたい思いを、ほぼ私自身が撮影した写真とともにつづります。
@これは350回におよんだ「憶の細道 明けの道」を改題した続編です。
@「憶の細道 明けの道」のバックナンバーへは、以下からお入り下さい。
 http://web.sankeipro.co.jp/asai/
@写真をクリックすると大きくなります。
@写真・記事の無許可転載を禁止。Copyright(著作権)はASAI Nobuoに帰属。

help リーダーに追加 RSS

第467回 ボーダレスの就活

2009/11/19 20:41
 私が大学で教えていた1990年代、夏か
ら秋にかけて、卒業予定者は企業から引っぱ
りだこだった。

 ある大手商社の人事担当役員は私の研究室
まできて「学生をください」と頭を下げてい
ったものだ。そんな来客が多いので、事務局
の窓口に対応をまかせて、私は雲隠れしたほ
どだ。

 学生たちは下宿で昼寝をしていると、いく
つもの企業から電話で内定通知がとどく。企
業は彼らをかこい込むため、ハワイ旅行に連
れて行ったりした。

 そしていま運命は大逆転。来春の大卒予定
者の就職内定率は10月始めの時点で62・
5%と公表された。国内で嘆いていても始ま
らないというので、経済回復が堅調な中国で
職探しを始める日本人があとをたたない。

 中国語ができる日本人の月給は、職種にも
よるが約1万元(13万円)にもなる。広州
では中国人の大卒者の平均月収は1500元
(1万9500円)だから、1万元はかなり
の高給といえる。

 ただし、中国では即戦力をもつ人材や営業
経験者が歓迎されるので、大卒者にはつらい
ハードルではある。

 関西出身の59才の男性は、中国の貿易会
社で日本向けの機械部品の検査を任されてい
る。地位は購買部長。昨年9月、日本の機械
メーカーを退職したとき、大学生の子どもが
2人もいた。リーマン・ショックの時期にあ
たり、日本国内ではなかなか新しい職が見つ
からなかった。

 失業保険も期限が切れそうになり不安の日
々を送っていたら、中国で仕事が見つかりほ
っとしている。日本向けの製品の検査の仕事
は中国人よりも日本人にまだ向いており、そ
れが武器となった。

 不況からの出口が近いとされる中国が、隣
国であることは日本人には幸いである。すべ
てが国境を越えて動く時代に、就職を国内だ
けに限ることはあるまい。

 いま上海で長期滞在する日本人は約5万人
といわれるが、そのうち中国の会社で働いた
り、日本企業に現地で採用されて「ローカル
スタッフ」並みで働く日本人は1万人以上に
ものぼっている。

 日本人はすぐ言葉の壁におののくが、本当
の壁は国境を越える決断力をもてないことに
ある、と私は考える。

 たとえばイラン人が日本に来て、上野や渋
谷で麻薬を売って捕まるニュースがときどき
ある。彼らは日本語などできずに日本にやっ
てくる。麻薬販売は困るが、とにかくお金を
をかせいでは本国へ送金している。

 むかしからイラン人は国境を越えることに
ほとんど壁を感じていなかった。そのことは
イランの歴史を学び、イラン人の動きを知れ
ば理解できる。

 ハワイと同じ緯度の中国・海南島のアメリ
カ系リゾートホテルのレストランで食事をし
ていたら、生演奏が始まった。カリビアン音
楽が多い。

 聞き覚えのある「グアンタラメーラ」が流
れ始めた。私は思わず食事の手を止め、立っ
て行き、マイクの前に立たせてもらい、下手
なスペイン語で唄った。これはかつてキュー
バ滞在中にで覚えたものだ。

 南米パラグアイから来たという楽団員たち
は言った。

 「中国語はまったくできない。パラグアイ
を出てロサンゼルスで演奏した。そしてこの
中国。次はタイのチェンマイに行く予定だ」

 職場はどこの国でもよく、スイスイと国境
を越えて仕事をしている。メロディは言葉よ
りも容易に国境を越えるので、有利ではある。

 外国で就職できるかどうかはまず能力、次
は決断への心の問題である。

 
画像


中国・海南島のホテルのレストランで働く南米パラグアイのバンド。2006年12月撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 24 / トラックバック 0 / コメント 0


第466回 横浜ベイスターズ讃歌(2止)

2009/11/06 10:30
 横浜ベイスターズを愛するのは、地元チー
ムというだけでなく、とてもスマートに見え
るからだ。チームカラーのブルーは私のお気
に入りで、選手は泥くさくない。汗くさくな
いし、清涼感もある。

 弱虫の歴史だけではない。打線が切れない
というので『マシンガン打線』の異名をとっ
たこともある。

 私はテレビで発言した。
 「マシンガンなんて武器の名前をつけるの
は嫌いだ。打線が止まらないのであれば、も
う『どうにも止まらない』と唄った山本リン
ダのパワー溢れる踊りにちなんで『リンダ打
線』と呼ぼう」。
 「賛成!」の声をたくさんもらった。

 横浜ベイスターズにはユニークな特徴があ
る。チーム名に企業の名前が入っていないこ
とだ。いまのプロ野球の球団名に企業名を出
していないのは、広島カープと横浜ベイスタ
ーズだけだ。

 ベイスターズの主たるスポンサー企業は T
B S だが、マスメディアは露骨な儲け主義を
控えているほうが好ましい、と私は思う。

 一時、楽天がT B Sの株を買い進めたことが
ある。私は「楽天ベイスターズになったらど
うしよう」と秘かにあわてたほどである。

 弱いベイスターズに思いを入れる決定的な
理由は、私の人生観とかさなる。

 山あり谷ありの長い人生を送ってきた私に
も、不調のときがあった。挫折したときに2
種類の人間を目撃した。私から去っていく人
と、私に近づいてきて助け励ましてくれた人
である。後者の人の暖かさを忘れない。

 私も挫折した人から離れていく人間にはな
りたくない。この人生観からは谷に落ち込ん
だベイスターズを見捨てることなどとてもで
きない。

 たとえ愛想をつかして去っていくファンが
いたとしても、私は「最後のベイスターズ・
ファン」になる覚悟である。

 ベイスターズの弱点はよく理解しているつ
もりだ。だから「ガンバレ!」とは決して叫
ばない。そう叫んでもどうにもならないこと
が分かっているから。

 神戸で教鞭をとっていたとき、阪神淡路大
震災を経験した私には、被災者が「頑張りよ
うのない苦境」に追い込まれた事実をよく知
っている。

 そういう人たちに「ガンバレ!」はむしろ
残酷な言葉である。

 選手たちもつらいはずだ。私はかれらと思
いを共有し、静かに悩み、しばらく哀しみに
耐えていきたい。

 額縁が二つわが家にある。一つに『大洋ホ
エールズ。1960年。日本シリーズ。チャ
ンピオン』とあり、他は三原修監督以下、チ
ーム全員のサインの寄せ書き、である。

 保管していた球団関係者が老齢となり、老
人ホームに入られた。「どなたかに引き継い
で大切に保管してほしい。夫婦で相談して浅
井という人が適任者と意見が一致した」。

 そんな希望が T B S に寄せられた。いまそ
の貴重な額縁はわが家にある。

 そして1998年の劇的な優勝。横浜そご
う百貨店前に設けられた「大魔神社」に、私
も2度お参りした。

 常勝チームなんてあり得ないし、そんなチ
ームは苦労なしの優等生と同じで面白みがな
い。味もない。たぶん嫌われる。「栄光」も
「挫折」も世の常だ。

 ベイスターズへの熱烈応援は、山あり谷あ
りの人生の味わいそのものである。

画像


1960年、横浜べイスターズの前身、大洋ホエールズが優勝したとき、選手たちが寄せ書きしたサイン集。中央の下に監督、三原修のサインが見える。判読できないサインがいくつもある。(クリックすると写真を大きくできます)



ホエールズ&ベイスターズ60年の軌跡
楽天ブックス
B.B.mook出版社:ベースボール・マガジン社サイズ:ムックその他ページ数:114p発行年月:20

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へナイス ブログ気持玉 13 / トラックバック 0 / コメント 0


第465回 横浜ベイスターズ讃歌(1)

2009/11/05 22:35
 今シーズンは100敗するのではないかと
心配した。横浜ベイスターズのことだ。結局
は93敗で終わってくれてほっとした。そん
な弱体チームをなぜ私が熱烈に応援している
のか。あちらこちらで聞かれる。

 そこで以下、2回にわたって私がベイスタ
ーズのファンになった理由を書く。

       @@@

 講演で全国各地へうかがうと、よく横浜ベ
イスターズが話題になる。最近の驚きは、鹿
児島で国際政治について1時間半語り終えて
からだった。

 「最後に一言つけ加えたい。私は横浜ベイ
スターズの熱烈なファンです」といったとた
ん、数百人の聴衆がわっと歓声と拍手で反応
してくれた。なんじゃ、この騒ぎは、と思っ
たほどだ。

 愛媛で講演を終えてホテルのロビーを歩い
ていたら、女性が近づいてきて「横浜ベイス
ターズの大ファンです」と握手を求め、お土
産まで差し出した。いずれも想定外のことで
ある。

 「国際政治よりも横浜ベイスターズの話を
してもらった方がよかったかな」と講演終了
後に、主催者にいわれたこともある。ますま
す想定外の展開だ。

 私がどうにもならないほど弱いチームをな
ぜ熱く応援するのか、それを不思議がってい
る方が少なくないようだ。そのナゾを知りた
がっている人たちである。
 
 横浜港の開港150周年の2009年も惨
憺たる成績の横浜ベイスターズ。勝っても負
けてもベイスターズに寄りそうのが本当のフ
ァンだと思っている。

 そんな共通のファン心理がある。何がそん
なに人を魅きつけるのだろうか。他人のこと
はよくわからないが、私のことなら自信を持
って語れる。

 かつて読売新聞の記者だった私は読売ジャ
イアンツ(当時の名前は東京ジャイアンツ )
を応援した。会社からのいわば「業務命令」
的な応援だった。

 優勝すると、ジャイアンツの選手たちが監
督を先頭に読売新聞社のビル内を一階から最
上階まで帽子を振りながら挨拶して回る。そ
れが慣例だった。

 次いで教鞭をとった神戸市外語大学の近く
で練習していたオリックス。でもイチローが
抜けてつまらなくなった。そして迫力ある星
野仙一が好きだったので中日ドラゴンズ。

 このチームも優勝したのち次の「恋人」探
しだ。考えてみれば、私は長い間の横浜市民
だった。神戸市民と思われたこともよくある
が、実は毎週、横浜から神戸へ新幹線で通っ
ていたのである。

 ところで艶歌『昔の名前で出ています』に
こうある。

 「はま(横浜)の酒場に戻ったその日から
あなたがさがしてくれるの待つは」
 「流れ女の最後の止り木にあなたが止まっ
てくれるの待つわ」。

 野球ファンとしては「流れ男」の私にとっ
て、最後の止り木は横浜ベイスターズをおい
てほかにない。浅井よ、おまえが止まるのを
ベイスターズが待っているよ。そんな結論に
達したのである。

 それよりもさらに強いベイスターズ讃歌を
うたう理由もある。(つづく)

画像


2009年9月21日、横浜球場で阪神に快勝したのち、勝利に貢献した三浦大輔(左)と佐伯貴弘がお立ち台でファンに挨拶。同日、ネット裏の放送席から撮影。



ホエールズ&ベイスターズ60年の軌跡
楽天ブックス
B.B.mook出版社:ベースボール・マガジン社サイズ:ムックその他ページ数:114p発行年月:20

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へ面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0


第464回 アナログの暖かさと有益性 

2009/11/05 21:31
 デジタル全盛の時代である。テレビもまも
なくデジタル放送だけになり、アナログ放送
は廃止される。そうなるとアナログとのお別
れが寂しくなる。いやむしろアナログの良さ
を考えたくなる昨今である。

 地方へ出かけて地元のひとたちとヒザを接
して話し合うと、いうにいわれぬ暖かさを感
じる。いいな、と思ってしまう。

 通信販売のガイド雑誌で「森で生まれたラ
ジオ」の表題に目がとまった。インドネシア
のジャワ島で伐採された木材を使って、外観
と内部をあわせて、6割が木製というラジオ
である。思わず触ってみたくなる

 選曲や音量のツマミも木製である。目盛り
はない。理由は「指先や耳の感覚を集中させ
て製品と向かいあってほしい」とのインドネ
シアのデザイナーの願いからだ。いい言葉だ。

 パソコンでインターネットをやればたくさ
んの情報が集まる。その通りだ。でもその情
報はたいていは公開してもよいと考えた人た
ちが意図的に流している。公開したくない情
報を手に入れたいと思えば、寅さんのように
日本国内も外国も歩きまわって、人や物と対
話しなければならない。

 人と対話するには食事したり、お酒を飲ん
だりも必要になる。気持がゆるんで口を開き
やすくなってくるからだ。デジタルで得られ
ない情報はそうやって知ることができる。

 中国は建国60周年を祝った。つまり60
年前の1949年10月1日、毛沢東主席が
天安門広場に集まった大群衆を前に「中華人
民共和国」の建国を宣言した。

 翌50年、朝鮮半島で戦火がひろがる。南
北朝鮮がまず撃ち合ったが、やがて米軍中心
の国連軍が韓国につき、北朝鮮軍を北へ追い
つめて戦場は中国との国境におよぶ。

 突然、中国の人民解放軍がなだれをうって
北朝鮮に入ってきた。「人が海水のように流
れれ込んできた」というので、人海戦術なる
言葉が聞かれた。

 中国軍には毛沢東の長男、毛岸英も志願し
て従軍、前線司令部で参謀をつとめた。やが
て米軍機の爆撃を受けて彼は戦死した。戦争
が始まった年、1950年の11月25日の
ことで、28才の若さだった。

 そこまではたいていの文献で知ることがで
きるが、戦死の状況はわからなかった。

 2008年10月、私は中国と北朝鮮の国
境の街、丹東に滞在した。北朝鮮のビジネス
マンもよく見かけた。そこで思いがけない話
を聞いた。

 「毛岸英はある朝、司令部から外に出てた
き火を始めた。タマゴ焼きが大好きな彼はが
まんできずに自分でつくろうとした。煙がた
ちのぼった。それを発見した米軍機が急降下
してきて爆弾を落とした。毛岸英はほとんど
直撃を受けて即死した。」

 「屋外での火気は厳禁だったのに。そんな
いいかげんな毛岸英が生きていたら、中国は
どうなったかわからない。戦死してよかった
のだ」

 「丹東には毛沢東像が建っているが、実は
木造にペンキを塗って銅像に見えるようにし
てある」

 こんな話はいままでどの文献をのぞいても
目にできなかった。公開しにくい話とは口コ
ミでしかもれてこない。インターネットを駆
使してもでてこない。

 その話が真実かどうかは問題でない。そう
いう情報があり、あるいはそのような解釈が
存在するのだ。それが毛沢東と彼の長男、そ
して中国と北朝鮮の関係の全体的状況を判断
するうえで、貴重なものである。

 デジタル世界の敗北、アナログ世界の勝利
というほかない。

 
画像

中国・丹東にある抗美援朝記念館に飾られている毛岸英の胸像。2008年10月撮影。抗美とはアメリカに抵抗すること、援朝とは北朝鮮を助けること。記念館のどこを見ても毛岸英の戦死のいきさつはわからない。


記事へナイス ブログ気持玉 17 / トラックバック 0 / コメント 0


第463回 日本人と外国語

2009/11/01 18:00
 日本人は外国語ににがてだ。そんな話をよ
く聞く。なにを根拠にそういうのかわからな
いが、外国語にうまいか下手かは簡単には論
じにくい面がある。

 外国語のかたことを話すのか、日常会話が
できるのか、専門的な会話ができるのか。専
門的会話といっても、たとえば私は国際政治
についての英会話ならかなり通用すると思っ
ているが、専門分野がちがって、たとえば英
語で文学を語るのはほとんど不可能だ。

 アメリカやカナダの国際政治関係の学会に
出席した私は、学会そのものの議論にはつい
ていけたが、親睦のディナー・パーティの席
で話題が心理学や哲学の世界にひろがってい
くとほとんどお手上げになり、情けない思い
をしたことがある。

 哲学の議論など日本語でもついていけない
のだから、外国語では当然のことだ。外国語
ができるかできないかは、実にあいまいなこ
とがわかる。

 卓球の福原愛ちゃんは中国で試合をしたあ
との記者会見を、中国語でこなしていること
が少なくない。

 中国語をまったく知らない者は「うまいも
のだ」と感心してしまう。中国人によれば彼
女の中国語会話のレベルは日常会話程度、し
かも瀋陽なまりがある、と聞いた。

 たしかに愛ちゃんは瀋陽の体育学校に留学
していたから、瀋陽なまりはなるほどと納得
できる。

 自民党の加藤紘一代議士は英語も中国語も
できるとの定評がある。もちろん英語で外国
人と国際政治や外交を議論するのに不自由は
ないだろうし、シンポジウムでの英語による
議論を聞いても、そつなくこなしている。

 でも本人は「日本語での議論に比べれば疲
れる」と正直に告白する。ネイティヴ(生ま
れつき)の英語使いではないからだ

 来日した中国の代表団の歓迎パーティの席
上、加藤氏が中国語で挨拶した場面にいたこ
とがある。ステージにあがってメモなしで終
始よどみなく語った。

 中国語のできない私は「うまいな」と心中
では思ったが、うまいかどうかも私は判断す
る能力が実はないのだ。

 別の機会にそのことが話題になって、私は
「とにかく加藤氏が壇上で中国語で挨拶する
のを聞いただけ」と答えて、うまいかどうか
の評価は避けた。つめたいようだが、それが
正確な批評というべきだろう。

 「英語で自己表現できる1万人に1人の日
本人学生である」と小泉八雲から賞賛された
のは、明治・大正の文豪、上田敏の学生時代
である。彼は外国人の詩をたくさん日本語に
翻訳したが、もとの詩より美しい訳詩になっ
たとの評価が高い。

 時は秋。たとえばポール・ベルレーヌの詩
「落葉」の日本語訳はこうであった。
 
 「秋の日の ヴィオロンの ためいきの 
身にしみて ひたぶるに うら悲し」

 上田は原詩の感性を読み取って日本語の感
性に再現した。外交問題での翻訳や通訳はそ
うはいかない。感性はなるべく排除して、言
葉の意味を正確に一方から他方へ移し替えて
いかねばならない。

 
画像


福原愛ちゃんが留学した中国・瀋陽の市内。ここには韓国と北朝鮮がともに領事館を置いて情報戦にしのぎをけずっている。夜のコリアタウンにも南北朝鮮のレストランやナイトクラブがいくつもある。2008年10月撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 15 / トラックバック 0 / コメント 0


第462回 野村監督の2枚の色紙

2009/10/28 22:51
 東北楽天ゴールデンイーグルズの監督とし
て最終戦を指揮した野村克也監督が、直後の
テレビ出演で色紙をしたためた。

 「野球に学び、野球を楽しむ」とある。ず
いぶんわかりやすい言葉。実は14年前のヤ
クルト監督時代、野村さんは私の求めに応じ
て色紙を書いてくれた。

 同じテレビ番組に出演して、終わったのち
のことで、一語一語、力をこめ時間をかけて
書いてくれた。その慎重というか、静かな姿
を私は忘れない。

 色紙には「随処作主」とあった。いく人か
の知人に聞いてみたが、だれも意味を説明で
きなかったほどだ。実はかなり有名な言葉で
はあり、名句辞典によればこうなる。

 「臨済宗の開祖の臨済義玄禅師が修行者を
さとして使った言葉。いつどこにいても、ど
のような場合でも、何ものにも束縛されるこ
となく、主体性をもって真実の自己として行
動し、全力をあげよ。そうすれば真実を把握
でき、外界のどんなウズに巻き込まれても翻
弄されることはない」

 ひとことでいえば「どこにいても主となる
こと」である。

 平成7年10月29日の日付がある。秋の
ちょうどいま頃である。クライマックス・シ
リーズはまだなかったから、日本シリーズで
イチローのいたオリックスを敗って日本一に
なったころであろう。

 たしかに主体性の確立した監督だ。つねに
わが道を行く、の感がある。そしてイチロー
封じ込めに成功して日本一になった。その心
境をこの色紙に託したと思われる。
 
 全力を出しつくした緊張感もただよう。た
ぶん日頃から名語名句辞典などをひもといて
用意していた言葉ではなかったか。

 それに比べると、引退同然のいま余裕のあ
る心境を吐露した言葉といえる。すなおであ
る。「楽しむ」の一語がそれを示している。

 クライマックス・シリーズを日本ハムとた
たかって敗れた。記者会見の最後に「就職を
お願いします」と叫んで笑わせた。さち代夫
人も夫にまだ野球監督をしてほしいと願って
いたと、夫人と話をした知人から聞いた。

 結局、楽天の名誉監督として残り、給与を
もらいながら「評論家活動も、テレビ出演も
ご自由に」となった。現場の指揮はもうしな
いが、フアンを楽しませてくれる場面はこれ
からも続く。

 私は14年間におけるノムさんの心境の変
化を、異なる2枚の色紙の言葉を比べながら
推測する楽しみをいま味わっている。色紙の
言葉は変わる。人間も変わる。

画像
記事へ面白い ブログ気持玉 19 / トラックバック 0 / コメント 0


第461回  鳩山外交の成績は「B」だ

2009/10/16 22:18
 就任から1か月の鳩山政権、9か月たった
オバマ米政権。どこか似ているなと思ったら
それは、前政権のマイナスの遺産を山のよう
に抱えていることだ。

 同情すべきことではあるが、政治は甘えが
許されない。国民は「変化」を早く見たいか
らだ。政権側ももちろん早く結果を出したい
と努力をしているが、全般的な経済の低迷期
にあって思うようには成果を出せない。

 そこで鳩山政権のようにまずスタイルを変
えた。「政治主導」の大合唱がそれだ。

 だがそれはあくまでもスタイルの変化であ
って、問題はそこからどんなに好ましい成果
を国民に実感させられるかである。「何かが
変わりそうだと感じてもらえた」とは鳩山首
相の就任1か月の自己評価だ。

 言葉じりをとらえるようだが、「何かが変
わりそうだ」では不十分なのだ。国民に好ま
しい変化が生まれた、と実感されなければな
らない。そんな結果はまだ見当たらない。

 外交面でも「2020年までに 温室効果ガ
スを対90年比で25%削減」という環境政
策は、国連で鳩山首相が表明して大拍手を受
けるほどの歓迎を受けた。しかし、それは目
標でありビジョンの段階にとどまる。実行の
プランを示してはいない。

 国内の努力による削減、つまり「真水」の
削減割合でさえ決まっていないのだ。

 しかも前提条件があった。「すべての主要
国の参加による意欲的な目標の合意」が日本
の国際公約の前提だというのだ。

 目下のところアメリカも中国も日本の提唱
にはふれていない。そこで一部の外国の環境
政策担当者からは「日本は前提条件をはずし
て、自分で提唱した目標に向かってどんどん
進んだらどうなのか」などの声も聞こえ始め
ている。

 「東アジア共同体」構想にしても、日中韓
の首脳会談の声明は「長期的目標」とすると
うたったのが精一杯である。その意味は「す
ぐには議論しない。棚上げしましょう」であ
る。外交用語だからダメだと切り捨てるいい
方は避けているのだが、現実を見ればそんな
こといま具体的に議論できますか、という意
味になっている。

 これも構想はぶちあげても実行のプランを
鳩山政権が持ち合わせていない例だ。結果を
出せないでいるといってもよい。実行のプラ
ンどころか東アジア共同体にアメリカを関与
させるのかどうか、もあいまいである。

 岡田外相が「アメリカを含めない」という
のに対して、鳩山首相は「排他的なものには
しない」と対立する。首相と外相の見解さえ
調整していないのだから、構想事態が未熟と
いうほかない。むしろ醜態ではないのか。

 なぜ新しくもない東アジア共同体の構想を
鳩山首相がいま繰り返すのか、どうしても理
解できない。

 首相や外相が外国を飛び回り、外国首脳と
の会談風景がテレビで報じられる。目立って
はいるが、それは成果でもなんでもない。外
交とはそういうものであり、当然の姿だ。

 存在感があるなどと評価すべきでない。目
立っていることに幻惑されてはならない。

 共同通信社から「就任1か月の鳩山外交を
採点してほしい。A B Cの3段階評価で」と
私に問い合わせてきた。私は即座に「 B」と
答えた。

画像


鳩山首相の国連での「温暖化ガス」削減の演説を伝える民主党の機関紙『民主』の2009年10月9日号。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 22 / トラックバック 0 / コメント 0


第460回 リオへお嫁に行ったタカラジェンヌ

2009/10/05 10:23
 「誠意を訴える」ことは目的達成には絶対
の条件だ。2016年の夏の五輪の開催都市
を決めるにあたっても、投票者はそれをとて
も重視したようである。

 投票日直前に投票会場に飛び込み、あわた
だしく演説したと思ったら、結果を見ること
もなく帰国の途についたアメリカのオバマ大
統領や日本の鳩山首相。シカゴと東京は相次
いで落選した。

 「誠意なし」と見られても当然だ。こんな
ことで当選していたらそれもまた変である。

 開催都市に決まったリオデジャネイロで思
い出したことがある。宝塚歌劇団の星組の男
役トップスターの麻路さきさんのことだ。

 神戸大震災で宝塚の劇場がつぶれ、再建ま
での苦労を私は彼女と対談して聞いた。彼女
が自著を出版したときの記念会にも、私は同
席して、お祝いの挨拶をした。

 1998年の公演を最後に退団、リオ在住
の日系宝石商と結婚するためリオデジャネイ
ロへ渡った。彼の店はリオを訪ねる日本の政
財界人が立ち寄って、お土産をよく買った。

 婚約がととのい、日本の知人に紹介する集
まりが都内のホテルであり私も招かれた。時
の総理、小渕恵三氏もきて挨拶した。

 遅れてやってきた小渕氏は、準備無しとは
いえ、とりとめない、退屈な挨拶を20分も
続けた。まだ挙式をしていないのに「このた
び結婚されたことは」などと間違え、失笑を
買っていた。

 最後に挨拶に立った麻路さきさんに注目が
集まった。

 「いままでは男役を演じてきましたが、こ
れからは彼のそばでずっと良き女役をやりた
いと思います」

 わずか1分足らずの短い言葉に私はうなっ
た。ユーモアもある。これが誠意と気持のこ
もった名言なのだろう。

 鳩山総理夫人の幸さんもタカラジェンヌだ
った。目立ってハデな幸さんの言動が「何を
伝えているか」もじっくり考えてみたい。

画像


東京・日比谷で開かれた自著の出版記念会に出席した麻路さきさん。仲間や後輩のタカラジェンヌ多数が同席、実に華やかな空気が会場を包んだ。私も珍しい場面を目撃した。1997年、撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 13 / トラックバック 0 / コメント 0


第459回 政治家の精神力

2009/10/05 07:36
 1980年代の始めのことであった。自民
党の有力政治家、中川一郎氏がワシントンに
来た。当時ワシントンで仕事をしていた私た
ちジャーナリストが集まって、一緒に食事を
した。

 急ぎの仕事で途中退席しようとした私は一
郎氏に呼び止められて戻りかけると、彼が立
ち上がって私に近づいて来た。すると「まあ
いいか」と彼はつぶやいて、そのままもとの
席に戻ってしまった。

 明らかに彼は、私に何かを言いたがってい
た。そして思いとどまった。

 間もなく日本からのニュースに驚いた。一
郎氏が出身地の北海道で自殺した。「風呂場
で首を吊った」というのだ。57才。自殺し
てしまったので、私に言おうとした内容は分
かずじまいで、ずっと気になった。

 そしてこの10月4日、こんどは息子の中
川昭一氏が急死した。すぐ父の一郎氏と会っ
た最後の場面を思い出したのは当然だ。「息
子もまた自殺か」と推測したのは、これまた
自然である。父の死よりも1才若い56才で
あった。4半世紀の政治家人生に悲劇的なピ
リオッドを打った。

 麻生太郎の盟友であり、麻生政権の有力閣
僚であった。イタリアでの「もうろう記者会
見」で評判を落とし、衆議院選挙で落選、比
例区に名前を載せてあったが、そこでも復活
当選できなかった。地元有権者の支持も消え
失せていたのだろう。

 それまでは、ろくに運動せずとも当選して
きたのにである。

 昭一氏はベッドに伏せていて、周囲には酒
と睡眠薬があった。「もうろう記者会見」を
反省して衆議院選挙にあたって断酒宣言して
いたのにだ。

 死因よりも彼の精神力を考える。もともと
銀行マンであり「自分は政治家に向いていな
い」ともらしていた、という人もいる。「し
たたかでない政治家は去れ」と言い放ったの
は、小池ゆり子氏である。

 自民党大敗の象徴が、彼の「もうろう記者
会見」だったともいえる。昭一氏は政治的に
は再起困難。それを彼自身が一番よく承知し
ていたはずだ。「よく眠れない」と家族にこ
ぼし、睡眠薬を常用し、断酒したはずの酒に
また手を出す。

 再起は困難ではあるが、不可能とはいえな
い。まだ56才である。政治家として再起で
きなくとも、他に活躍できる世界がないはず
はない。

 日本の政治家で第2第3の人生を切り開い
ている例は多くない。引退しても永田町だけ
を徘徊している人もいる。

 細川護煕氏は例外である。首相退陣をめぐ
り批判を呼んだが、いまは陶芸のウデを磨い
て外国で個展をやる。古寺をたずねて良き古
さを語るテレビ番組に出演する。人間の、人
生の多彩さを具現した人である。

 政治への生くさいこだわりを捨ててはいな
い、と彼に近い人はいうが、精神力と心のゆ
とりこそ魅力的ではある。

 
画像


中川昭一氏の死去を伝えるイギリスBBC放送のオンライン版。
記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


第458回 「東アジア共同体」と「大東亜共栄圏」

2009/09/29 21:18
 「東アジア共同体」構想っていったい何だ
ろう。鳩山外交の目玉のひとつであるが、端
的にいって「目ざす」のは可能だが、実現は
遠い遠い将来のことといわざるを得ない。と
いうより、しばらくは実現性にとぼしいとい
うことだ。

 東アジア共同体はかつてマレーシア首相の
マハティールが唱えたのが最初だ。彼が共同
体から排除しようとしたアメリカが、猛烈に
横やりを入れたため、行きづまった。アメリ
カが妨害すれば、日本は絶対に賛成はできっ
こない。そんな時代だった。

 鳩山構想の大きな困難は意外なところに転
がっていると思う。共同体の重要なメンバー
と思われる中国や韓国は、頭から反対はして
いないが、積極的に日本と一緒に行動を起こ
す気配はまったく見えない。

 国際問題に強い中国の「環球時報」のオン
ライン版「環球網」が世論調査で、共同体構
想の障害を問うたところ、「日本はアジア諸
国で信頼を得られない」が24・6%で第一
位だった。

 2位は「領土問題」の22・4%、3位は
「東アジアの歴史問題」18・8%だ。北朝
鮮の核問題は5・6%で6位というのは、障
害としては意外に小さいが、北朝鮮の核問題
の解決もまたいつになるかわからない。

 日中関係やアジア情勢をウオッチしている
ある中国人は「共同体というだけで東条内閣
の大東亜共栄圏を思い出してしまう」という
のだ。

 これはおそらく鳩山政権の多くが想定もし
なかった反応ではないか。東アジア共同体と
大東亜共栄圏。だからアジアでは日本は信用
されにくいという判断につながる。

 この人物はまた「主導権争い」を引き起こ
すかもしれないと、指摘する。具体的には日
本と中国のどちらが主導権を握るかというこ
とだ。いま構想をぶちあげたのが日本である
という事実、それがすでにむずかしい状況を
生み出したともいえるのだ。

 といって中国が先に打ち出したら、これま
た日本国内に複雑な反応を引き起こし、共同
体構想は行き場を失いかねない。

 構想の中に「アジア共通通貨の創設」がう
たわれている。これは主導権争いにまさに重
なる問題だ。すでに中国が人民元の国際化に
動いているのはよく知られている。

 ユーロも大いに国際化したが、中国の人民
元もますます有力な国際通貨になっていくの
は必至の勢いだ。

 世界銀行のゼーリック総裁が「ドル基軸通
貨体制を前提に考えるな。ドルにかわる選択
肢が出てくるだろう」と注目すべき発言をし
たのは、9月28日である。

 それにタイミングを合わせるかのように中
国政府は、人民元建ての国債を香港で売り出
した。外資を呼び込もうとの思惑も大きいは
ずだが、外資がどっと流れ込むようだと人民
元の国際的信頼は格段に高まる。

 こんな状況では「アジアの共通通貨」など
夢のまた夢、といわねばならない。ユーロを
生み出した欧州共同体( E U )の実現には数
十年を要した。共通要素の少ないアジアでは
共同体の実現はさらなる時間がかかろう。

 ユーロは生まれたが、 E Uの有力メンバー
のイギリスはユーロに切り替えることはせず
にいまだにポンドを使っている。通貨をめぐ
る主導権はそこまで微妙な問題だ。

 そして日本が起こした戦争の遺産が、いま
も鳩山政権のアジア外交の行く手に障害物を
ばらまいている。それを忘れてはならない。

画像


中国政府が香港で発行した「人民元建ての国債」の債券。中国中央テレビ「CCTV」の画面から撮影。条件がそろえば企業も個人も買うことができると、当局は説明している。



東アジア共同体
楽天ブックス
経済統合のゆくえと日本岩波新書 著者:谷口誠出版社:岩波書店サイズ:新書ページ数:231p発行年月:

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 0


第457回 ベールをぬぐ中国の近代兵器

2009/09/28 17:26
 建国60周年にあたって中国は「軍事パレ
ード綜合司令部弁公室」を設けて、その準備
や宣伝にあたっている。

 司令部は人民解放軍が設けたものだが、興
味深いのは彼らが軍事パレードの目玉として
強調している点だ。9月23日、高建国報道
官(少将)の記者会見で明らかにした。

 たとえば「将兵の志気」をあげ「参加将兵
の武威みなぎる勇壮な隊列、奮い立ち、高揚
した軍威」などと説明する。「訓練水準」と
しては「徒歩隊列の確固たる豪胆な足取りと
勇往邁進の気概、装備隊列の渾然一体の動き
と、山を押しのけ海を覆す気勢、航空編隊の
巨竜が天空を翔る勇姿と精確かつ精彩を放つ
飛行」などだ。

 「山を押しのけ海を覆す気勢」という表現
について、在日中国人の知人は「実に詩的で
す」といったが、私は単に「中国的」という
に留めておきたい。

 たぶんこれらの目玉には、中国のメディア
は注目して報道するかもしれぬが、外国メデ
ィアの関心が「装備」の一点に絞られるのは
間違いない。毎年、軍事費が2桁で増えてい
るのだから外国メディアだけでなく、世界の
軍事関係者にも注目の的になろう。

 説明では「わが軍の現役の武器と装備の水
準」とあるが、さらに具体的にどんな新兵器
が登場するかだ。52種類の国産兵器の90
%は初公開ともいう。

 中国の各種メディアによれば、まず長い間
ベールに包まれてきた国産の早期警戒管制機
( AW A C S )が今年初めて、軍事パレード
に加わる。指揮、管制、通信、情報機能を一
体化したハイテク装備であり、湾岸戦争いら
高度に情報化した環境での作戦で「空の司令
部」とされる。

 これはソ連製の戦略爆撃機「Tuー4」を基
に開発され、1970年代に試験飛行を開始
したものといわれる。

 新型戦略ミサイルも登場する。従来型より
「さらに短く、さらに小さく、しかし威力は
さらに大きくなっている」とのことだ。6 つ
のミサイル精鋭部隊が参加し、「登場する1
0 8基のミサイルは全て最新型だ」と公表さ
れている。核ミサイルや巡航ミサイルも姿を
見せるそうだ。

 建国60周年という節目に、軍事パレード
が国民意識にどんな影響をあたえ、また諸外
国がいかなる反応を見せるか。さまざまな議
論を巻き起こすのは必至である。

 自民・公明党政権時代なら「脅威」の叫び
一本やりだったが、鳩山新政権下でどんな反
応を示すかも注目される。


画像


天安門広場の両側に登場した56本の「民族団結柱」のパレード。チベットやウイグルを含む56の民族の団結を強調するもので、表に民族の絵、裏に民族の名前が書かれている。知人のMaeda Eriさんが9月20日に撮影して、資料と一緒に、送ってきてくれた。




記事へ面白い ブログ気持玉 17 / トラックバック 0 / コメント 0


第456回 日本は「核の傘」を断われるか

2009/09/25 11:45
 中国のふるい言葉に「隗(カイ)より始め
よ」がある。意味は「まず手近なところから
始めよ」であり、英訳はスタート・スモール
となる。小さく始めるとやがて大きな動きに
育っていうという意味もある。

 4月始めオバマ米大統領が東ヨーロッパの
プラハで「核兵器を廃絶させる決心をした」
と演説し世界中を驚かせた。核兵器を使った
唯一の国アメリカは「核廃絶の道義的責任」
を持つとものべた。

 本当にできるのかといぶかる声もあるのだ
が、オバマは選挙運動中からそれを繰り返し
ているので、本音と思われる。世界の現実は
それをアメリカに迫っているといえる。財政
的負担も大きいのだろう。

 唯一の被爆国の日本にはまさに嬉しい驚き
の発言である。世界の核兵器の数は2万発以
上もあり、人類を7回も壊滅できる。

 数日前、オバマ大統領が議長の国連安保理
は「核廃絶を目ざす」と決議した。画期的で
はあるが私の直感的感想は「憲法の前文みた
いなもの」「ないよりはあったほうがいい」
程度である。

 世界の核兵器の95%はアメリカとロシア
にある。フランスは「まず米ロがどんどん減
らせ」と迫っている。ロシアは「米ロが減ら
したら他の保有国も同調せよ」と、おたがい
に牽制しあっている。

 アメリカが広島、長崎で使ってから核兵器
を使った国はない。にもかかわらず核兵器を
持ちたい国は少なくない。

 核不拡散条約がある。「新しい核保有国を
増やさない。保有国は核兵器を減らす」と書
いてある。

 巨大な核保有国アメリカは、北朝鮮やイラ
ンなどの核保有に強く反対してきたが、自分
では核兵器の性能を高めたり、小型化して使
いやすくした。減らすことにはまったく熱心
でなかったといってよい。

 核兵器を持つと自分を守るのに役に立ち外
交力も強まる。イギリスも中国も自国の安全
を確保するてめには「最低限の核を持ち続け
たい」といっている。

 核を持たない国は「そんなにプラスがある
なら自国も持とうか」との誘惑に駆られるの
は理解できる。「貧乏人の兵器」といわれる
ように、核兵器の開発コストのわりには威力
が巨大だとされる。

 北朝鮮が核爆発してから北朝鮮攻撃論はし
ぼんでしまった。核保有国の北朝鮮を攻撃で
きないとの認識が広まったからだ。

 核保有国は必ず増えていく。本当に使いた
いテロリストもいると思われる。このままで
はますます深刻な状況になっていく。
 
 財政難に直面するアメリカは、お金のかか
る冷戦型の軍備を減らす方向に動き始め、日
本も欲しがっていたF 22という高価な戦闘
機の開発中止を発表した。核兵器の廃絶の決
意もその方向に沿っている。

 新しい状況に立つオバマ大統領の基本の理
念にも注目したい。「紛争解決を先送りしな
い。解決の方法は力だけでは不十分。敵とも
話し合いたい」。

 鳩山政権は「唯一の被爆国として核廃絶の
先頭に立ちたい」と決意を表明している。

 日本には深刻なジレンマがある。日本の安
全保障をアメリカの核に頼っているからだ。
それをアメリカに「核の傘」をさしてもらっ
ている、という。

 広島、長崎の悲劇からくる核廃絶の叫びは
いわば実体験にたつ理想論。これも日本政府
には重い。でも「核の傘」は要りません、と
いつアメリカにいえるのかだ。「核の傘」か
ら抜け出しても日本は安全だといえる状況を
いかにしてつくるか。

 その議論は「終わりなき議論」として結論
を出さないまま、いや出せないまま、自民党
政府は逃げてきた。

 民主党政権はその議論を深めて国民の同意
を得られる結論を出せるか。まったく「未知
なる荒野」に乗り出す印象だ。
 
画像


広島市内の三瀧寺。秋の紅葉はまことに美しいが、あまりに赤々と燃える紅葉はついあの大悲劇の日を人びとに思い起こさせる。広島は一瞬にして赤い猛火に包まれた。2006年11月に撮影した写真を市内在住の知人、T.Sawadaさんが送ってくれた。



NHKスペシャル::映像の世紀 第8集 恐怖の中の平和 東西の首脳は最終兵器・核を背負って対峙した
楽天ブックス
レーベル:(株)NHKエンタープライズ販売元:(株)NHKエンタープライズ発売日:2005年11月2

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へナイス ブログ気持玉 17 / トラックバック 0 / コメント 0


第455回 言論規制とメディア

2009/09/21 21:11
 昨年夏、北京オリンピックの開会式の極秘
リハーサルの一部を韓国のメディアが報じた
ことで、中国当局を激怒させた。

 きたる10月1日の中国建国60周年の記
念日も厳戒態勢下で行われる。大規模な軍事
パレードがあるといわれる。パレードのリハ
ーサルは原則的に非公開である。

 その様子を取材しようとした日本の共同通
信の記者やカメラマンが中国当局に見つかっ
て、殴られパソコンを壊された。デジカメの
写真の消去を指示された。9月18日のこと
である。

 共同の記者たちは天安門広場からのびる長
安街の軍事パレードのリハーサルを記録しよ
うとして、東長安街に面する有名ホテル、北
京飯店の客室を借り、そこから外をうかがっ
た。ホテルの窓からは東長安街の様子がよく
見渡せる。その日、長安街には戦車などが集
まっていたそうだ。

 北京飯店は歴史あるホテル。40年近く前
に北京に立ち寄った私は「北京飯店が外国人
の泊まれる唯一のホテル」と紹介された。当
時、ホテルの玄関の両側に中国人民解放軍の
兵士が機関銃を構えて警備していた。

 共同側は「9月6日のリハーサルの取材禁
止の通達を受けていたが、その後についての
通達はなかった」と弁明している。そのあた
りがあいまいだったのだろうか。

 ただ常識的に軍事パレードのリハーサルが
取材自由とは考えにくい。取材禁止の通達が
なかったとしても、改めて取材O Kかどうか
を確認すべきだったとの見方もできる。

 共同の取材方法はメディアなら一応は考え
るアイディアであるが、取締る側もそれを想
定してホテルの窓をチェックしていたと思わ
れる。その結果、「怪しい動き」と察知して
部屋に踏み込んだのだろう。

 共同の姿勢は理解できる。当局のいいなり
になっていたら十分な取材はできない。

 数十年前、私もビルマ(現ミャンマー)で
大統領官邸を走行中の車の窓からこっそり撮
影したのを見つかった。すぐジープがサイレ
ンを鳴らしながら追いかけて来て、私は大統
領警護隊本部に連行された。

 撮影目的などを厳しく追及されたが、実を
いえば、大統領官邸の撮影は禁止だろうなと
予測はしていた。事前に確認したら禁止とい
われるとも予測していた。でも「捕まったら
知らなかった」と言い通すことまで覚悟の上
での隠し撮りであった。

 実はメディアの仕事は「取材する」そして
「報道する」ことで完結する。私の場合も共
同通信の場合も「取材はしたが報道できなか
った」のだから成功とはいえない。当局の警
戒のチエに敗れたともいえる。

 中国の過去の例から見ても、こんな場合は
住民にも外出禁止が命じられる。北京中心部
の住民の話を最近聞いたばかりだ。「外出禁
止の家屋には税務署の差し押さえのようにバ
ツを書いた紙を貼って行く」。

 イベントの当日も外出できない。「パレー
ドを見たという知人がいるので、聞いてみた
ら、テレビのパレード中継を見たという意味
だった」。

 軍事パレードには空軍の飛行パレードも予
定されるが、そのリハーサルはあたりまえな
がらが取材も見物も自由。市民は「建国記念
日当日の本番が楽しみ」と語っていると、中
国中央テレビ( C C T V )は伝えている。

 北京周辺での厳戒情報は多い。北京空港の
離着陸は一定の日時の間、禁止。パレードの
予定される地域の近くでは数日前から立ち入
りが禁止。そんな情報である。

 中国政府がとくに恐れるのは、新彊ウイグ
ル自治区の不穏な情勢の余波だ。7月に大規
模な騒乱、9月にも注射針で人を襲うなどの
陰険な事件が起きた。根底には少数派のウイ
グル民族と多数派の漢民族の対立がある。

 資源の豊富なウイグル地区の発展は著しい
が、主として利益をあげているのは商才に富
む漢民族。利益をあげた漢民族はそれを地元
に還元せず、自治区の外に持ち出してしまう
ことが多いので、地元民の利益は限られる。

 その不満がウイグル民族に内向し、爆発し
て騒乱に発展する。イスラム教徒のウイグル
民族は中央アジアやアフガニスタンのイスラ
ム勢力とも連携しているもようだ。

 とすればウイグル自治区の騒乱はチベット
のそれよりも深刻とみてよい。7月の場合に
は、ヨーロッパへ出かけていた胡錦涛総書記
が予定を切り上げて帰国したほどだ。危機の
深さを即座に感知したからだろう。

 ウイグル民族の不満からくるエネルギーは
まだ燃焼し尽くしてはいないと、中国当局は
見ている。

 その不満エネルギーは建国記念日のころ北
京ではけ口を求めて噴出するのではないかと
中国当局は恐れる。当局の強い警戒心が共同
通信の取材チームに対する過剰な暴行につな
がったと私は解釈するのである。

画像


北京中心部に位置する北京飯店ホテルの玄関ロビー。建国記念日を控えて厳戒体制下に。写真の左下の玄関から入った人物は、安全確認の検査ゲートをくぐった後、右奥のフロントへ進む。この写真は去る9月23日、現場で撮影した知人のMaeda Eriさんが送ってくれた。(写真をクリックすると大きく見ることができます)。



記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 25 / トラックバック 0 / コメント 0


第454回 タイタニック号に海水が流入中!!

2009/09/18 15:43
 東京都心にいると「空気が汚れているな」
とつくづく感じてきた。用事がすむと逃げる
ように郊外へ移動するのが習慣だ。だから空
気をきれいにするとか、地球の温暖化を防ぐ
などの話には、敏感になってしまう。

 鳩山新政権の政策で、外国からパチパチパ
チと大きな拍手を受けたのは、地球温暖化へ
の対応だ。温室効果ガスを「2020年まで
に1990年にくらべ25%削減をめざす」
と大々的に発表したのである。

 自民党政権下の日本の環境外交は消極的と
思われたきた。日本が先頭にたってまとめた
京都議定書にさえ反対したアメリカのブッシ
ュ前政権につきあったといえなくもない。 

 おそらく鳩山政策のうち、国内はもちろん
人類全体の未来に、一番大きな影響を与える
のが、温室効果ガスの削減目標である。
 
 だがすぐ財界も労働界も大声で反対の声を
あげた。これは予想されたことである。経済
活動の手足をしばり、結果としてそこで働く
労働者にもマイナスになるからだ。

 この目標達成が簡単でないことは民主党も
よくわかっているのだが、地球温暖化を防ぐ
ための世界の議論の「先頭に立ちたい」との
思いがあったのだろう。

 鳩山首相は「あらゆる政策を総動員して実
現をめざす」といい、また「日本が突出して
重い負担をするのではなく、温暖化ガスを大
量に吐き出す他の国も参加することを前提に
する」と条件をつけている。

 「25%削減」の具体的な中身はまだ固ま
っていない。国内の削減分(いわゆる真水)
と海外から排出枠を買う分などを含むが、そ
の割合は決まっていない。だから国内の経済
活動にどれだけ影響を与えるのかもまだはっ
きりしないというべきだ。

 私は目標実現に必要なのは第1に「なんと
してもやり抜く」という政治の決断だと信じ
る。八方美人ではなく選択の決意だ。

 「政治主導」とは、官僚に対してだけでな
く、財界や労働界にもあてはまる。さらに重
要なことだが国民を納得へ導ことでもある。

 第2は危機感をいかに高めるかである。ア
メリカのオバマ大統領も読んで感銘を受けた
とされる著書がある。英語の原題を直訳する
と『温暖化、フラット化、人口過密化する世
界』となる。

 そこには「本当に危機感を抱いているのは
専門家だけだ」と書いてある。危機の実態を
こんな表現で説明している。
 「人類が乗るタイタニック号は氷を避けた
いのではない。もう氷にぶつかって、船内に
海水がなだれ込んでいる。だがダンスフロア
から離れない乗客がいる。ビュッフェで食事
をしないと気がすまない乗客もいる」

 最近タクシーに乗ったら運転手が「わが家
は太陽光発電で電気をまかなっています」と
語った。意外な話。そこまで危機感を持って
いる人がここにいる。そう思って私はちょっ
と感動したからだ。
 
画像


北京市内のあるホテルの中から庭を眺めたら、その向うにいつも排気ガスで霞んでいる空があった。2009年7月撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0


第453回 マニフェストと現実の間

2009/09/14 10:08
 「選挙公約なんか選挙が終われば忘却の箱
に封印される」との記事を、私がワシントン
で暮らしていた約30年前に読んだ。

 民主党と社民党、国民新党の連立合意の全
文を読みながら、その記事のことがすぐ思い
出された。マニフェストなどと大げさにぶち
上げたのは、いまでも解せない。なぜ選挙公
約とわかりやすく呼ばないのだろうか。

 それはともかく連立合意の文書で私が注目
したのは、「XXXをする」との動詞の部分で
ある。

 たとえば「東アジア共同体(仮称)の構築
をめざす」とある。東アジアというからには
北朝鮮も当然含まれようが、朝鮮半島の現情
勢をみれば共同体の実現など、まったくめど
が立たない。

 似た構想として、「環日本海経済圏」構想
が1980年代末からあり、新潟には「環日
本海経済圏研究所」も設けられた。朝鮮半島
情勢が流動化してから研究も交流も行きづま
るか、限定的になってしまっている。

 「東アジア共同体」も、だから「構築をめ
ざす」とあり、いつまでにという時間表は示
しようがない。つねに「目ざしている」と言
い続ければよい。だから3党合意もすんなり
できあがる。

 それが基地問題となると話はちがう。日米
地位協定の「改定を提起し」、在日米軍基地
のあり方も「見直しの方向で臨む」とかなり
前向きで近い将来の具体的行動を想定してい
る。実はこの表現は民主党のマニフェストに
書いてある表現と同じなのである。

 ところがいったん選挙がおわり、鳩山由紀
夫氏の訪米やオバマ大統領との初会談が迫る
につれて、民主党はその表現をあいまいにや
わらげようとした。この配慮もわかる。つま
りマニフェストは主として選挙対策で、おそ
らくは沖縄県民の支持を確保したい計算もあ
ったのだろう。

 だが現実の対米外交を考えると、その表現
はきつすぎると民主党は考えた。その段階で
マニフェストは「忘却の箱」に入れられかけ
た。社民党はそこをゆずると党の存在価値が
問われる。

 社民党はくい下がった。「マニフェストに
書いてあるじゃないか」と主張し、3党合意
文書にも同じ表現を書き込ませた。

 とくに沖縄住民の不公平感の観点から自然
なことだと私も思うが、この合意の結果、遅
かれ早かれ、鳩山政権はアメリカに地位協定
の改定を「提起」しなければならない。在日
米軍基地のあり方についても「見直し」をア
メリカに働きかけなければならない。

 民主党は参議院での過半数確保という政局
上の配慮から連立を求めた。その代償として
政策上の約束を強いられたのである。不本意
ながら。

 
画像


民主党のマニフェスト集の表紙。インターネットでダウンロードしたもので、次のような説明と注意が添えられている。「民主党の政権政策Manifesto2009について。鳩山由紀夫代表が7月27日に発表した「民主党の政権政策Manifesto2009」は、党が目指す政策をまとめた政権政策集です」「内容の改変については法的措置を講じることがあります」。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 14 / トラックバック 0 / コメント 0


第452回 「記憶の細道」をたどる不安

2009/09/13 17:02
 過去の記憶のか細い道をさかのぼって今と
明日を論じたい。そんな思いで始めたこのエ
ッセイだが、人間の過去の記憶や過去の判断
にさかのぼる作業が、どこまで正確なのかと
の不安がつきまとう。

 というのはこんな話を聞いたからだ。小説
を書く作家は、それが本になって刊行された
あとでも、読み返してみて修正したくなる場
合が少なくない。

 大作家の井伏鱒二は95才で逝った。87
才のとき『井伏鱒二自選全集』を出すことに
なったが、名作『山椒魚』に目をとおした井
伏はなんと末尾を削ってしまった。これは論
壇を騒然とさせた。87才の井伏は判断力が
衰えた。能力ではなく「脳力」に変調をきた
したらしい。そんな声も出た。

 『恍惚の人』で記憶される有吉佐和子の死
は悲劇的であったらしい。53才の若さでの
死だが、急性心不全という病名だけでは悲劇
の全貌を表していない。死のベッドのかたわ
らには睡眠薬とウイスキーのビンがあったと
聞く。だから自殺説も流れたそうだ。

 彼女も『恍惚の人』に手を加えたいと言っ
たことがあるという。関係者には「有吉も恍
惚の人になったか」とささやく者もいた。皮
肉な話である。

 自作に手を加えるのは執筆者の良心とも一
応はいえるが、そのときの執筆者の精神状態
を正確に診断することは不可能である。それ
が人間の能力の限界でもあろう。

 私がこの連載エッセーで数十年前の記憶を
引き出してものを論じ、できることなら、そ
こから未来への教訓的ヒントを示したいと考
えたことのなんたる傲慢・・・。

 でも、いまでも「面白い」「楽しみにして
いる」「参考になる」と言って下さる方がた
の声を支えに、まだしばらく書き続けたいと
決意している昨今の私だ。

 
画像


有吉佐和子『恍惚の人』の新潮文庫版の表紙。映画化され、DVD化もされた人気作品。
記事へ面白い ブログ気持玉 17 / トラックバック 0 / コメント 0


第451回 「カティンの森」事件と政権交代

2009/09/02 20:32
 ポーランド東部を流れるブク川。そこにか
かる橋の上は大きな荷物を抱えた人びとでゴ
ッタ返していた。西からの人波と東からの人
波が出くわしたのだ。西からの市民はドイツ
軍に追われ、東からの市民はソ連軍に追われ
て逃げる途中だった。

 ポーランドの悲劇を絵に描いたような状景
である。70年前の1939年9月1日、ナ
チス・ドイツがポーランドに侵攻、ポーラン
ド軍が抵抗していたら、9月17日、こんど
は背後からソ連軍が侵攻してきた。

 70年目の記念式典がさる1日、ポーラン
ド北部のグダニスクで催された。席上、ポー
ランドのトゥスク首相は「誰に責任があるか
を忘れるな」と、ドイツ、ロシア双方の責任
にずばり切り込んだ。

 式典にはドイツのメルケル首相やロシアの
プーチン首相も参列していた。その面前での
70年前の両国の責任糾弾。まさにポーラン
ドの苦難の歴史と怨念を強く印象づける。

 強いドイツとソ連にはさまれて翻弄された
ポーランド。その象徴として「カティンの森
事件」がある。

 ポーランドが侵攻された翌年には早くもソ
連軍が連行したポーランド軍将校多数の行方
不明がウワサされる。1941年、ドイツが
ソ連に攻め込んだため、ポーランド情勢は大
混乱に陥るが、1943年、カティン(現ロ
シア西部スモレンスク近郊)で多数の白骨が
発掘され、ポーランド軍将校の虐殺現場とわ
かる。

 だがカティンは一時的にナチス・ドイツの
占領下にあったたため、ソ連は「ナチスがや
った」とずっと言い続けた。戦後もドイツと
ソ連は互いに相手に責任を負わせ、ナゾの事
件として残った。

 真相が明らかになるには、冷戦終結と共産
ソ連の崩壊を待たねばならなかった。ゴルバ
チョフ政権になったソ連は1990年、「ソ
連内部人民委員部(のちの K G B )の犯罪で
あった」と認め、ポーランドに謝罪した。

 この「カティンの森事件」を扱った映画を
試写会で見た。監督は『地下水道』『灰とダ
イヤモンド』などを手がけた名監督、アンジ
ェイ・ワイダ。試写会室から出てきた私は待
ち受けるスタッフに思わず「疲れた!」を連
発した。エンディングは後ろ手に縛られたポ
ーランド軍将校を後頭部から打ち抜いて、墓
穴に落とす場面の連続である・・・。

 この文章の冒頭で書いたブク川の橋上での
避難民の混乱風景は、映画の始めに見せられ
る。驚きの一つはワイダ監督の父も虐殺の犠
牲になっていた事。監督の弁が感動的だ。無
事の帰還を待つ人びとの気持がにじむ。

 「真実を明るみに出すだけであってはなら
ない。史実は人間の運命の背景であるにすぎ
ない。永遠に引き離された家族の物語だ。主
人公は殺された将校たちではない。男たちの
帰還を待つ女たちだ。来る日も来る日も、昼
夜を問わず、信じて揺るがない女たち。ドア
を開けさえすれば、そこに久しく待ち受けた
男が立っていると確信し続けた女たち」

 虐殺の被害者は3か所で1万数千人にのぼ
ると推定される大事件であり、事件の全体像
にはまだ不明の部分が多いそうである。それ
でもソ連の体制変革で核心は公開された。

 実はわれわれ日本人にも他人事でない。総
選挙によって実現した政権交代によって、長
い自民党政治のもとでタブーとされた出来事
が必ず解明されると期待されるからだ。

 たとえば日米間で結ばれたと疑われる「核
の持ち込み密約」である。

画像


アンジェイ・ワイダ監督のポーランド映画『カティンの森』(2007年)のプログラム表紙。右側の男性がソ連軍に虐殺されるポーランド軍将校、左が妻のマヤ。ひたすら夫を待って、その死を知らされた瞬間、マヤは卒倒してしまう・・・。日本では12月5日から岩波ホールでロードショーの予定。
記事へ面白い ブログ気持玉 30 / トラックバック 0 / コメント 0


第450回 マニフェストの「外」に注目

2009/08/27 16:55
 知人の親族に不幸があった。突然の事故死
である。車でバックしていて海中に転落した
のだ。場所は東北の小さな社会。都会から馳
せ参じた親族のひとりは、小さな地域社会の
「和」の機能を印象づけられた。

 となり近所、いや地域の人たちがやるべき
ことを分担して葬儀など事を進めた。それは
都会では考えられない現象であった。伝統的
なルールやしきたりが機能していた。結論は
「そのことを熟知していると、こんなにラク
チンな社会はない。でもその社会に馴染めな
いヨソ者にはとてもつらいでしょう」

 これは古い因習にかかわる社会人類学また
は文化人類学の世界だ。日本人につきまとっ
ている領域の問題である。

 8月30日の総選挙投票を前に、私は外国
のメディアから相次いで取材を受けた。アメ
リカ、中国、ドイツ・・・。共通して聞かれ
たのはマニフェストの中身などではない。マ
ニフェストの枠外で関係者が語るひと言、ふ
た言である。

 たとえば安全保障のことは民主党も自民党
もマニフェストで詳しくはふれていない。私
は安全保障はマニフェストの内容としてそぐ
わないと考える。外国のメディアが必ず触れ
たのは小沢一郎氏の次のひと言だ。東アジア
でのアメリカのプレゼンス(存在)は「第七
艦隊だけで十分である」。

 極論すれば「日本の国土における米軍基地
は無用」ということになる。アメリカは驚く
し、また中国も自国の安全保障に影響がでる
から、そこに注目するのは当然だ。で、彼ら
の次の関心は「仮に政権をとった民主党の中
で小沢氏は大きな影響力を持つのか」だ。こ
れも当然の質問である、と私は理解できる。

 それについては実は、民主党の岡田克也幹
事長が「民主党政権の中で小沢氏には重要な
ポストを占めてもらう」と語っている。ここ
で海外メディアは緊張するのである。現実に
は民主党政権の外交政策がどこに落ち着くの
かは不明で、いくつもの仮定の話が重なって
いるのはいうまでもない。

 私が興味を持つのは、これは政治学のレベ
ルの話ではない。人間関係論の要素がかなり
大きく、言ってみれば人類学の世界に近づい
ていく。日本の政界における人類学的リアリ
ティに通じた外国人でないと、政権交代後の
日本の政治状況を理解するのはむずかしいだ
ろうと思わざるを得ない。

 エドワード・ケネディが死去し、アメリカ
のメディアは大特集を組んでいる。なかでも
ケネディ家の歴史やジョン、ロバート、エド
ワードの三政治家の比較や関係を論じている
のが私の目を引いた。アメリカ政治でも人間
関係論が花開くとの思いを深めるのである。

 冒頭に書いた東北の小さなコミュニティで
の葬儀をめぐる「和」の現象と、似ている面
がある。そして、それぞれの独特の人類学的
な因習に馴染めないと、全体を分析しにくい
という結論に至るのだ。

 
画像


1980年、ニューヨークで開かれた民主党の党大会で、現職のカーター大統領と民主党候補を争ったエドワード・ケネディは、大会の席上で演説(写真)し、候補の辞退を明言した。大会場の一角で取材していた私は彼のひと言をメモした。「自分の選挙運動は数時間前に終わった」。民主党候補に決まったカーターは本選挙では共和党のロナルド・レーガン候補に敗れた。
記事へ面白い ブログ気持玉 23 / トラックバック 0 / コメント 0


第449回 毒?を売って富豪になった人

2009/08/24 11:05
 長女の誕生日に早めに帰宅した安部司さん
は、食卓に並んだご馳走に喜んだ。でもミー
トボールを口にして彼は凍りついた。味に記
憶がある。「味憶」という。娘も息子もおい
しそうに食べている。

 おもわず彼はお皿を手で覆った。そのミー
トボールは自分の開発した製品だった。廃鶏
のミンチ肉に化学調味料、ラード、加工でん
ぷん、結着剤、乳化剤、着色料、保存料、酸
化防止剤を加えてある。さらに添加物を駆使
して「ケチャップもどき」をつくった。添加
物20ー30種類を使ったと記憶する。

 この商品は大ヒットし、これだけである会
社はビルが建ったとうわさされた。安倍さん
は添加物のかたまりのような食品を、わが子
どもたちが喜んで食べている姿に接して、つ
いに職を辞した。やがて『食品の裏側』なる
本を書いて、添加物食品を世に警告した。

 さる8月8日、クロアチアの首都ザグレブ
市内にある壮大なミロゴイ墓地を訪ねた。ク
ロアチア初代大統領の墓にも注目したが、そ
れよりも忘れられないのは、サラミの製造販
売で財をなした一族の墓。

 豚や牛のひき肉を使ってさまざまな味つけ
をしてあり、フランス、イタリア、ハンガリ
ーなど東ヨーロッパで好まれてきた。私も好
きであった。墓の下の部分に四人の埋葬者の
名前と寿命が彫り込まれている。

 驚くほどの長寿だ。86才、90才、90
才、89才。では長寿の秘密は何か。案内人
は皮肉っぽい表情で「サラミを食べなかった
からです」。すぐ私は安倍さんの著書を思い
出した。おいしいものはしばしば健康に良く
ない添加物を加えているから、ということだ
ろうか。そのことをメーカーはよく知ってい
るに違いない。

 食材の原型をわからなくしてしまった食品
は、消費者には実態を判断できない。「不健
康でも安くておいしければいい」と考える人
も少なくない。私は他人にどうせよと強制す
るつもりはなく、ただ実態を知りたいと思う
のみである。

画像


ザグレブ市内のミロゴイ墓地にあるサラミ富豪一族の立派なお墓。下部に示されている4人の埋葬者の長寿ぶりに注目して欲しい。2009年8月8日、撮影。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 38 / トラックバック 0 / コメント 0


第448回 機中でお婆さんが急死!!

2009/08/11 13:15
 かつてハイジャック事件や機中での銃撃戦
などすさまじいニュースを報道した経験をも
つ私だが、機中で90歳の老女の急死を目撃
して動転した。国際報道とはまったく違う人
間の情感が湧いてきたからだ。

 さる5日、東京からオーストリアのウイー
ンに向かっていた。あと1時間ちょっとで目
的地につく段階で、近くの座席の一角があわ
ただしくなった。
 
 小柄で白髪の老女がふらふら立ち上がって
はトイレに向かう。まわりの親族らしい人た
ちが5、6人が老女を介護している。目撃し
たビジネスクラスの客はそんなに多くはなか
ったはずだ。

 半時間後、機内放送で「乗客のなかに医師
はいませんか」と伝えられた。30代半ばの
男性が登場して、座席の老女をのぞき込んで
手当てを始める。老女はまたもトイレに向か
うが、こんどはなかなか座席に戻らなず、調
理施設のあるスペースに倒れ込んだ。

 医師は老女の胸をしきりに押している。人
工呼吸だろうか。酸素吸入器も使う。次の機
内放送は「機長の判断でヘルシンキに向かい
ます」。一瞬、やれやれの思い。ウイーン到
着後のスケジュールは変更を余儀なくされる
だろう。困った出来事に遭遇したな。

 北欧のヘルシンキ空港は夏休みにもかかわ
らず離着陸の機体もすくなく、私の乗機はス
ムーズに着陸。すぐ特別救護班が呼ばれたら
しい。小1時間待たされたのち、救護班はや
っと到着、と思わせる超スローペース。


 スチュワデスがばたばたと走り回っている
のが緊張感を高める。3人の救護班が蘇生を
試みる。蘇生させるということはすでに心臓
は停止状態ということか。さらに半時間。座
席にいた関係者のうち、中年の女性が手を合
わせて祈っている。老女の危険な容態を暗示
しているようだ。

 仰向けの老女の周りの人たちがいっせいに
立ち上がった。最後の時を迎えたのだ。警察
官が乗り込んできた。老女のいた座席の周り
を調べ、親族と会話する。犯罪性の有無を確
認するための現場検証だろう

 救護班は去り、白い小型車と乗客を運ぶバ
スが一台到着。板状の台に乗せられた遺体が
タラップを降ろされ、白い小型車で運ばれて
いった。親族のひとり、年配の男性が周囲の
乗客に向かって深々と頭を垂れる。「ご迷惑
をおかけしました」の意思表示。

 親族や関係者が続々とタラップを降りてい
って、バスに向かう。最後は座席で祈りを捧
げていた女性。たぶんお孫さんだ。赤い制服
のスチュワデスが駆け寄って女性の手をとた
り、肩を抱きしめている。お悔やみを述べ励
ましているのだろう。

 感想。90歳の女性の飛行機での長時間旅
行は身体にさまざまなプレシャーを与えたに
違いない。ある医師は「無理をしすぎた」と
切り捨てた。私にもそう思える。

 同時に親族の一人がスチュワデスにもらし
た言葉を忘れない。「本人はこの旅をとても
楽しみにしていました」。数人で介護し、助
けながらウイーン旅行の途上だったのだろう
か。無理を承知で、90歳の老女の夢をかな
える旅。それもまたうるわしい。

 医学的な理屈と人間的な思い。どちらも正
しいのだろう。病人を制限だらけにして、し
ばりつけては生活の質が失われる。いわゆる
クオリティ・オブ・ライフの本質にかかわる
出来事である。

 結果として多勢の乗客にさまざまな影響を
与えたうえ、本人も夢を達成できずに終わっ
た。誰のプラスにもならなかった。私にとっ
てもほろにがい夏の思い出。

画像


親族が乗り込んだバスの前で、亡くなった老女の孫と思われる女性に駆け寄ったオーストリア航空のスチュワデス。「がんばってね」と励ましているように見える。2009年8月5日、ヘルシンキ空港に緊急着陸した機内の私の座席から撮影。スチュワデスにも義務とはいえ、たいへんな経験だったに違いない。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 18 / トラックバック 0 / コメント 0


第447回 中国の統計数字を信じるか

2009/08/03 10:23
 「信頼」がないと個人でも国家でも致命傷
になる。いま日本の政治はまさに信頼を失っ
ている。「日本のカントリー・リスクは政治
だ」ともささやかれる。政治家はそんな世界
の評価などどこ吹く風、連日、リスクを高め
るような発言をしている。

 国家とは自国の利益のためには平然とウソ
をつくものではある。中国が公表する統計数
字も信頼度が低かった。それが中国の国会に
あたる全国人民代表大会で議論されたことも
ある。当局はあっさりと認め「今後は信頼さ
れる統計数字を出すようにつとめる」などと
答弁していた。

 最近の中国の数字で世界から注目を集めた
のはなんといっても、実質国内総生産(G D
P )の成長率だ。今年4月ー6月の第2四半
期の成長率はなんと7・9%と発表されたの
だ。「保8」、つまり8%維持を国家目標と
していただけに中国だけでなく、世界中が驚
きかつ、ほっとした。「保8」は可能だと。

 中国頼みの経済回復が願望だった。それが
いよいよ実現と思わせたのだ。「で、その数
字は信用できるの?」と同時にささやくむき
もある。過日、北京で数人の経済当局者に思
い切って聞いた。

 「7・9%の算定基準は何か。算定の基礎
にした資料を見せてくれないか」。これに対
して答えは「信用しないのか。それなら算定
基礎資料を見せても信用できないのだから見
せてもムダではないか」。ウーン、その通り
だな、やられたな、と私の胸の中の声。

 別の当局者はさらに言った。「信用するか
しないかにかかわらず、世界中は中国の成長
率は7・9ということを前提に動いているで
はないか」。それもまた事実だ。信じないよ
うな、信じるような。中国を見つめる世界の
気持には、不信と期待が入りまじっている。

 中国のあらゆる分野について、それはいえ
ることかもしれない。実は厳密にいえば、ど
の他国を眺める時でも、われわれの目は同じ
である。同じであるべきなのだ。

 
画像


北京空港で働く女性地上職員。2,009年7月23日撮影。写真は不思議なもので、こんな明るい笑顔を紹介すると国のイメージまで明るくなるし、地方の反政府暴動の写真を使うと、不安な国家イメージになる。両方とも事実なんだろう。つまり国の紹介は多面的であるべきなのだ。




数字で語る社会統計学入門
楽天ブックス
著者:ハンス・ザイゼル/佐藤郁哉出版社:新曜社サイズ:単行本ページ数:286p発行年月:2005年0

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 16 / トラックバック 0 / コメント 0


第466回 通訳の怖さと難しさ

2009/07/27 13:30
 かつて日本の観光客がマレーシア経由でオ
ーストラリアへ入国した。スーツケースから
麻薬がでてきたため逮捕された。英語のでき
ないこの観光客は大阪の中年女性。早口の大
阪弁でだれかに「騙された」と弁明した。

 マレーシアかどこかで麻薬密売人にスーツ
ケースの中身が入れ替えられたらしいが、は
っきりしない。彼女は弁明したつもりなのだ
ろうが、早口の大阪弁だったため、オースト
ラリア側が用意した通訳は正確に理解できな
かった。テレビの報道を見ていても適当に意
訳していると思われた。

 結局、彼女は有罪になった。大切なのこと
は、このような場合、通訳の能力を過信して
はいけないのだ。通訳しやすいように、短く
わかりやすい言葉で、ゆっくり話すべきであ
る。堀江謙一さんの経験も実に珍しい。

 1962年、堀江さんは太平洋をひとりぽ
っちのヨットで横断して有名になったが、到
着地のサンフランシスコで記者会見し、そん
な航海を「なぜしたのか」を質問された。堀
江さんがなにを説明しても、通訳は「そこに
海があるから」のひと言だったそうだ。たぶ
ん「そこに海があるから」は名言になる。

 そう通訳は考えたのだ。とんでもない越権
行為だが、それが現実である。日本の政治家
の挨拶をポルトガル語に通訳する仕事を私の
教え子がやった。いつもながら日本の政治家
の言葉は「言語明瞭・意味不明瞭」。意味の
明瞭な部分だけ通訳したら、政治家は「短す
ぎる」と怒り狂ったそうである。

 
画像


山口県長門市湯本の名高い温泉旅館『大谷山荘』を去るとき、タクシーの中から優雅な姿に一瞬、目を奪われて撮影。顔も見えず、言葉も無し、しかし彼女の意図は十分に伝わってくる。すばらしいコミュニケーション技術だなと忘れられない。



ダルフールの通訳
楽天ブックス
ジェノサイドの目撃者 著者:ダウド・ハリ/山内あゆ子出版社:ランダムハウス講談社サイズ:単行本ページ

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へ面白い ブログ気持玉 15 / トラックバック 0 / コメント 0


第465回 現場第一主義の効用

2009/07/23 11:00
 いま中国の自動車販売台数は世界一。それ
を知って思い出したエピソードがある。20
02年のサーズ流行時、満員バスの中でとな
りのサーズ患者がゴホンと咳をしたらたまら
ない。ゆとりのある人が自家用車を求めた。

 わかりやすい説明ではある。それも事実だ
ろうが、それだけでもないと聞いた。ちょう
ど中国の自動車の生産体制がととのった。そ
のタイミングにサーズがぶつかったというの
だ。自動車の販売はたしかにのびた。でも最
近の急増ぶりの背景は何か。もちろん合理的
な説明は可能である。

 サーズ流行時、初めて車を買った人にとっ
て買い替えの時がおとずれた。しかも条件が
あえば政府が補助金をだすことになった。輸
出困難に対応した国内需要の喚起が目的であ
る。こんどは経済不況のタイミングだ。

 こういう説明は中国現地に来て多くの人た
ちと懇談してわかってきたことだ。もちろん
日本国内にいてもわかることはあるが、現場
主義の重要性はどの時代でも変わらない。公
共事業は中国各地で活発であり、それが中国
経済の予想以上に早い回復基調の追い風にな
っている。決定も実行も早いのである。

 北京・天津間の新幹線に乗って驚いた。両
都市の間をわずか30分でつなぐ。スタート
して10分くらいで時速330キロにまで達
し、車内に刻々と時速が掲示される。中国人
は喜んでいるが、スピードを出しすぎで私に
は不安。土地が広くてほとんど直線走行が可
能なのだ。これも現場主義の成果である。

 
画像


北京から天津へ向けて走行中の新幹線エコノミークラスの車内。飛行機のスチュワーデスのような乗務員がサービスにあたる。北京への復路、1等車にのったら、座席がさらにゆったりしていた。2009年7月18日撮影。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 12 / トラックバック 0 / コメント 0


第464回 それぞれの「金子みすず」

2009/07/15 17:07
 山口県長門市にある金子みすず記念館の女
性学芸員の嶋田靖代さんは、すばらしい語り
手だ。金子みすずを取り巻く複雑な人間ドラ
マをわかりやすく説明し、26年の短いみす
ずの人生を魅力的に紹介してくれる。

 いまでは小学校のすべての「国語」の教科
書に載っている金子みすずの名声は、当然な
がら小中学生は知っているが、年配者は意外
に知らない人が多いらしい。というのもこの
記念館をつくる動きは25年ほど前から始ま
って、完成したのはわずか6年前。以来、み
すずの名は急速にひろまった。

 25年前、みすずの詩の同好仲間が力をあ
わせて郷里の墓を探すなどした。その一人が
嶋田さんであった。いまでは記念館は観光名
所となり、訪問者が遠くからも押しかけてく
る。何が人びとを魅きつけるのか。

 ファンそれぞれきっかけは違うようだ。私
は短い詩『大漁』にとりつかれた。魚がたく
さんとれ、浜辺ではお祭り騒ぎ。そして次の
言葉が私をとらえて離さない。海のなかでは
たくさんの魚が「とむらい」をしているーー
と訴えるのだ。海のなかでの魚の葬式など見
えるはずがない。でも事実かもしれない。

 豊かな想像力の産物である。私は講演など
でその詩を引用して、つけ加える。「私たち
はテレビから情報を得ることが多い。テレビ
は映像のメディアで、主として見えるものし
か伝えない。でも世界には見えない事実もご
まんとある。そこに想像力を働かせないと世
界の全容は理解できませんよ」

画像


長門市仙崎に金子みすずの生家があった。金子家が営んだ書店「上山文英堂」の2階でみすずは書を読み、ものを書いた。その場所がみすず記念館となり、当時のみすずの部屋も再現されている。この窓から目に入るツバメの飛ぶ姿など、すべてを題材にみすずは考え、作品に生かした。想像力の豊かな人は場所も時も選ばない。大正の昔、質素な部屋で、今日に通ずる作品を生み出した。



【ポイント10倍】金子みすず?不思議?2009カレンダー
キャラクター&ギフト店 モココ
サイズ 26×36cm 枚数  28P(表紙を含む)3?7営業日で発送*詳しい納期・在庫状況を知りた

楽天市場 by ウェブリブログ

発売日:2009/07/08金子みすず ベスト
IKEYA
(1)大漁(2)お魚(3)打出の小槌(4)砂の王國(5)色紙(6)おとむらひの日(7)もういいの(8

楽天市場 by ウェブリブログ

【ベストセレクト】小林綾子(朗読)/BEST SELECT LIBRARY 決定版 金子みすず(CD)
ぐるぐる王国 楽天市場店
■発売日:2009/7/8■在庫状況:1?3日以内に発送致します(土日祝除く)※ご注文タイミングによ

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へ面白い ブログ気持玉 28 / トラックバック 0 / コメント 0


第463回 国際結婚のいま

2009/06/30 20:46
 かつてワシントンで知り合ったアメリカ人
のカメラマンは「日本女性と結婚したが誤算
だった。次の妻はベトナム人だが彼女はすば
らしい」と語った。日本女性はなぜ誤算だっ
たのか。むしろ古い思い込みだった。

 日本女性はおとなしくて従順だ。そんな彼
の思い込みがはずれたのだ。「それは予習不
足だ」と私はいった。その調子ではベトナム
人妻ともいつまで持つか、とひそかに思った
ものだ。オーストラリアでも日本人女性とオ
ーストラリア男性との結婚が増えている。同
時にその半分は破局にいたるそうだ。

 その数字が多いか少ないかははっきりしな
い。オーストラリア人同士の結婚も半分くら
いが失敗に終わり、離婚しているからだ。日
本女性とオーストラリア男性の破局の原因も
冒頭の日本女性とアメリカ人男性の離婚理由
と同じで、互いの「期待はずれ」である。

 日本女性には妙な「白人崇拝」があり、オ
ーストラリア人男性には「おとなしくて従順
な日本女性」という時代錯誤がある。よくわ
からないのは日本女性とオーストラリア男性
の間の国際結婚は増えているのに、日本男性
とオーストラリア女性の結婚ははるかに少な
いことだ。ひとつはバランスの問題。

 オーストラリア女性はイギリス人と同じく
長身が多いが、日本男性はそうでもない。逆
なら奇異に見えない。実はオーストラリア女
性を妻とした日本男性に会った。彼にはいろ
いろ聞きにくいが、第3者は「かれの奥さん
は背が低い」と証言した。それ以上の性格は
わからない。他人は知るすべがない。

画像


シドニーの有名なオペラハウス方面の夕暮れと男と女。2009年6月30日撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 12 / トラックバック 0 / コメント 0


第462回 残酷な美、名誉、誇り

2009/06/24 22:24
 西欧クラシック音楽の専門家から驚くべき
話をうかがった。医者、とりわけ腕ききの外
科医のいる地域では、優れた声楽家が生まれ
る。そういってこの専門家はオーストリアや
イタリアの地名をあげた。

 具体的な話におよんで、たとえば「ウイー
ン少年合唱団の美声」に触れたのだ。わたし
は何を彼がいいだすか直感的に感じ取り、次
の言葉をかたずを飲んで待った。予想通りで
「少年たちにとって最大の脅威は声変わりで
ある」ときた。誰をも感嘆させる美声。声変
わりはたしかに脅威であろう。

 声変わりを回避し、美声を維持するために
はどうすればよいのか。そこで医師、とりわ
け外科医の登場となる。それ以上の話はむし
ろ聞きたくない。残酷な手術を推定させるに
はもう十分であるからだ。

 考えてみれば、人間は美を追求するために
ずいぶん残酷なことをしてきた。耳タブに穴
を開けるイヤリング、足の健全育成に悪いと
知りつつのハイヒール、髪の毛を痛めつける
毛染め、異常な筋肉増強を生み出すボディビ
ルディングやドーピング、細身を目ざすダイ
エット。女性も男性も差がない。

 美の追及、というよりも健康を害し、寿命
を縮める結果にさえなっている。スポーツ選
手は意外に短命である。健康や寿命を犠牲に
しても美やスピードや筋力が必要との考え方
がそこにある。それが現代である。人間の誇
りや名誉・名声もそれを促している。健康で
長生きするだけでは満足できない人間!!

 
画像


クロード・モネ「アルジャントゥイユの泊地の夕日」(1874)。姫路市立美術館の所蔵作品。この絵から感じ取るものは人によって大差がある。穏やかな美、不安な空気、残酷な人生、などなど。
記事へ驚いた ブログ気持玉 15 / トラックバック 0 / コメント 0


第461回 ナショナリズムは死なず

2009/06/16 21:21
 鹿児島の名高いホテル、城山観光ホテル
のロビーの一角に見事なガラス細工と陶磁
器の店があり、そこに韓国の金大中・元大
統領と握手する人物の写真が掲げられてい
る。日本と朝鮮半島の歴史がそこにある。

 鹿児島の観光みやげと言えばガラス細工
の「薩摩切り子」であるが、それに劣らず
見事なのは「薩摩焼き」である。薩摩切り
子は薩摩人の知恵と技能の賜である。では
薩摩焼きはといえば、これは朝鮮半島から
の陶工の研鑽の技術の結晶といえる。なぜ
朝鮮半島の陶工が鹿児島にきたのか。

 秀吉の朝鮮出兵に遡ることは常識だ。出
兵した秀吉軍が優れた陶工に目をつけたの
だが、秀吉軍に加わっていた島津藩の島津
義弘がとくに彼らに魅かれて薩摩に連れ帰
ったというのが定説である。

 それだけでも「こりゃ日本による拉致だ
な」とつぶやかざるを得ないが、頑として
朝鮮名を名乗る歴代の名陶工、沈寿官の一
族について物語る司馬遼太郎は、地元の驚
くべき説を紹介している。引上げの兵糧船
が空っぽで不安定なので、約70人の陶工
たちを重し代わりに乗せたというのだ。

 事実とすれば「やれやれ」である。彼ら
の名作はパリ万国博にも出品され国際的評
価も高まるが、一族は錦江湾に近い美山に
ひっそりと集落をつくってきた。そこは故
国の風景に似ているというのだが、やみが
たい望郷の思いがうかがわれる。『故郷忘
れがたく候』が司馬の物語の題名だ。

画像


14代沈寿官(左)が1998年ソウルで催された作品展会場で、駆けつけた金大中大統領(当時)と握手を交わしている。2009年6月、鹿児島・城山観光ホテル内に展示された写真を複写。
記事へ面白い ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0


第460回 全盲者がなぜ成功したか

2009/06/15 10:00
 全盲の青年が外国のすばらしい音楽賞を得
た。どうすればあんな快挙が実現するのかの
議論がはなばなしい。私は一般論では語れな
いと思う。優れて個人的なレベルの課題だと
信じている。だから成功例が偉大なのだ。

 「目が見えたとしたら何を見たいか」と問
われて「両親」と答えたのが世の親たちを泣
かせたが、その言葉に次いで「いまでも心の
目で見ています」の一言の方が意味深いと思
う。「目が見えたとしたら」という究極のタ
ラレバの質問を投げるのは残酷である。見え
ないに決まっているではないか。

 「心の目で見ています」の方がクールであ
り本質的である。全盲であるからこそ、その
他の感覚が研ぎすまされることはよく理解で
きる。「研ぎすまされた心の目」や両親との
会話から「想像上の両親の顔」が固まる。

 研ぎすまされた「他の感覚」こそ才能を浮
上させるカギだ。浮上した才能をのばしてあ
げるのは周囲との出会い、相性、さらに信頼
できるコミュニケーションだろう。その部分
はさまざまな個人的な条件に左右される。こ
うすれば成功するとの一般論はまず役立ちそ
うにない。そこがむずかしいところだ。

 障害をもって生まれた人たちで、大成功す
るのはむしろ例外的である。それは個人的な
条件が多彩であって、しかも人間的な環境だ
けでなく、自然環境にさえ左右されると思わ
れるからだ。そんな環境や条件に加えて、粘
り強く努力を続ける本人の意思の力、それら
の綜合が成功へのカとなる。









記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0


第459回 理想論だけで終わるな

2009/06/05 18:26
 中国の天安門事件から20周年。民主主義
の立場から「早く中国は民主化せよ」と叫ぶ
声が聞こえる。私もそう思うが、すぐに民主
化と自由化に切り替わったら、中国社会の大
混乱は避けられないのではないか。

 理想論と現実論である。理想論の主張には
誰も反対しない。誰も反対できない。多くの
マスコミでの議論は理想論を主張するところ
で終わってしまう。実現するにはどんな手順
が必要か。どの組織とどの組織が相談して実
現へ動いていくのか。それを具体的に示して
ほしい。実現可能な道筋を描いてほしい。

 でもそんな議論を聞いたためしがない。そ
れでは無意味ではないのか。主張するだけな
ら誰でもできる。なるほどそうすれば実現す
ると思わせる発言ではなければ無責任という
ものだろう。言いっぱなしでは無意味だ。

 さらに、もしすぐに民主化へ急転換したら
中国社会は大混乱するだろう。その可能性を
封じ込めながら民主化へ切り替えることが可
能だろうか。可能だとする現実的な議論を聞
きたい。経済不況への対応で中国はスピード
感をもって決定と実施に至ったとの評価が多
い。たぶん「非民主的な」手法に頼った。

 決定と実施にかかわったのはトップの10
人以内の作業だった。幹部の一人は「こんな
状況では民主化の遅れもやむをえない」と語
ったそうだ。日本の定額給付金は決定から支
給まで半年もかかった。「不況対策は遅れて
も民主的な手続きでやれ」と説得力をもって
公言できる人が果たしているか。

画像


北京の天安門前の風景。2008年7月撮影。車と人の雑踏。雨がぱらつき人々の傘姿がまたうっとうしさを付加していた。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 14 / トラックバック 0 / コメント 0


第458回 人間社会の本質は混沌だ

2009/05/24 11:20
 ヘンリー・ミラーの小説『南回帰線』にこ
んな言葉がある。「すべての幻想を捨て去っ
てしまえばあらゆることが判然としてくるも
のだ。そもそもの始めから混沌以外の何もの
でもなかった」。無限の解釈が可能である。

 私は人間の本質をついていると感じた。わ
かりやすくいえば「人間は複雑怪奇であいま
いで謎だらけ」といいたいのだ。脳や遺伝子
が人間解明のカギのような言説が大流行であ
る。これに対して脳原理主義と冷笑する向き
もある。犯罪捜査でのD N A 活用も100%
の確度はないのが現状だ。

 『悪の遺伝子』なるノンフィクションの翻
訳書がでた。精神科医の香山リカは「心の問
題がすべて脳や遺伝子の問題で解決できたと
したら、患者さんははたして幸福なのか」と
書く。精神障害者の立場からのものだ。

 健康法に関連して「免疫」が大流行だ。と
くに新潟大学の安保徹教授の免疫本が人気の
まとである。『こうすれば病気は治る・心と
からだの免疫学』などのタイトルからもうか
がわれるように、わかりすさと単純さが特徴
のようである。これに対して医学ジャーナリ
ストの後藤有能は違和感を感じている。

 ここまで単純化されるとかつて抱いた『形
なき生命の造形、免疫』への畏敬の念が薄れ
る」というのだ。私も「人間には一般論で断
定できることはない。断定できることはない
とは断定できる」と考える。免疫、脳、遺伝
子について断定的な議論に接すると、私は違
和感と抵抗感を抱いてしまう。

画像


いまわが家で咲いているムラサキ色のバラの花。「紫式部の子孫」と冗談に自称する私の大好きな花。「不況でもバラは裏切りません」との説明をつけて知人に送っている。誰もが喜んで下さる。「意味深ですね」と感動なさる方もいる。私は「千差万別の色を呈しながら毎年登場する花の命の不思議」にいつも感動し「そういえば人間も不思議だらけ」との結論にいたるのだ。



記事へ面白い ブログ気持玉 18 / トラックバック 0 / コメント 0


第457回 政治家の人間的側面

2009/05/21 13:06
 総理在任中の小泉純一郎は東京・丸の内の
タイ・レストラン「マンゴーツリー」を愛用
した。店を出るときキッチンをのぞいて「う
まかったぞ」と必ず声をかけて行った。彼の
人間味を示していて好きな話だ。

 これはレストランの関係者から聞いたエピ
ソードだから真実だろう。その小泉氏の在任
中の大仕事は、なんといってもイラクへの自
衛隊派遣だった。「ブッシュのポチ」とヤユ
されたころの彼の表向きの印象は「気楽に決
めたな」とも受け取られていた。だが実際は
違っていたようだ。

 小泉氏が自衛隊のイラク派遣を決断したと
き、かれは「顔面蒼白だった」との証言があ
る。小泉氏にも仕えた元内閣官房副長官の古
川貞二郎氏の貴重な話である。古川氏の首相
官邸勤務は通算3回。合計15年。

 内閣の要の内閣官房副長官としては8年7
か月の長期におよぶ。国の最高権力者の顔を
終始そばで観察してきたのだからその証言は
価値がある。とにかく戦場へ自衛隊を初めて
出すのだ。憲法違反の疑いも多分にある。戦
闘地域かどうかの追及も野党から受けるの違
いない。全部、承知の上での決断だった。

 そもそもブッシュのイラク攻撃が成功する
かどうかも分からない。それでも決断したの
が小泉氏。「世の中には人知の及ばないこと
があり、全力を尽くした後は祈る」ほかない
との先人の知恵もある。彼も決断のあと祈る
気持であったかどうか。それほどの謙虚な姿
勢を政治家は持っていて欲しい。

画像


新撰組の沖田総司と恋人との関係を話題にした想像場面。NHKテレビの「歴史秘話ヒストリア」から。彼女は事実上は内縁の妻だったとの説が紹介されている。血を恐れぬ沖田総司の人間臭いエピソード。こういう話を私は好きだ。
記事へ面白い ブログ気持玉 18 / トラックバック 0 / コメント 0


第456回 新インフル「禍」を転じて「福」に

2009/05/06 21:15
 2003年、中国で S A R S が猛威を振る
った。衛生当局が情報を隠したため被害は拡
大し、責任ある政府高官が更迭された。中国
の国際イメージは急降下した。不思議なこと
にその「禍」にも「福」がともなった。

 人々が自家用車を買い始めたのだ。バスな
ど満員の大衆交通機関に乗って、そばにいる
人がゴホンと咳をしたらたまらない。これは
生命にかかわるので、ゆとりのある人は自家
用車を求めて殺到したのだ。そして今日、中
国経済の成長にも後押しされて、中国は世界
一の車の生産国となった。

 新型インフルエンザで中国は世界的にみて
も厳しい警戒態勢をとったが、注目すべきプ
ラスもあった。中国政府が、5月18日から
開かれる世界保健機関(W H O)の総会への
台湾のオブザーバー参加に同意したのだ。

 1971年に国連での席を失った台湾がそ
れ以来、国連関係の会合に参加するのはこれ
が初めてという歴史的意味を持つ。2003
年にも台湾はW H O参加を求めたが、中国は
拒否、人道に反するとの非難を浴びた。昨年
の台湾の馬政権の発足で大陸との関係は深ま
っていたが、新型インフレも後押しした。

 グローバル化とは世界が小さくなることで
ある。アメリカ発の金融不安はあっという間
に世界中へ波及、世界中が協調してそれに対
応した。新型インフルエンザもすぐ世界へ感
染した。それへの対応も世界の協力が欠かせ
ない。「小さな紛争にかかわり合っている場
合ではない」のうねりが高まれば大歓迎だ。

画像


2007年12月、中国・南京を訪問中の私。いつもマスクをつけていた。特別の感染症の流行期ではなかったが、冬の乾期で空気があまりきれいでなかったので、季節性のインフルエンザ対策のつもりであった。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 21 / トラックバック 0 / コメント 0


第455回 「分からない」を嫌うメディア

2009/05/04 20:56
 北朝鮮の「発射」問題でメスメディアは騒
ぎ過ぎで、たぶん北朝鮮は「日本人は脅しに
弱い国だ」と受け取って、笑い転げていたの
ではないか。問題の核心はマスメディアの一
極集中報道にあることは間違いない。

 ある刺激的な問題が起こるとそればかりに
集中して報道することで、ほかの重要ニュー
スはどこかへ吹き飛んでしまう。それを一極
集中報道という。マスメディアの危険な特徴
のひとつと批判されてきたが、改まる様子は
まったくない。新型インフルエンザでそれは
またも繰り返された。

 「冷静に」というメディアが冷静さを欠い
ていたようだ。政治家にとってはポイント稼
ぎのチャンス到来。政治家もメディアも「悪
い方へ、悪い方へ」と前のめりなった。たと
えばこんな表現である。

 横浜の高校生が感染を疑われて繰り返し検
査を受けた。一部のメディアは「もし新型イ
ンフルエンザと確認されれば、日本国内での
感染者1号となる」と報じた。仮定の話だか
ら間違いではないけれども、そうと確認され
なければニュースにもならない。検査段階で
悪い結果を予測させる必要はないのに。

 検査段階では「結果は分からない」「検査
の結果を待っている」「検査結果が注目され
る」などのいい方にとどめるべきだ。「早い
情報伝達」はたしかに必要である。同時に余
計な不安感を振りまかないこともそれ以上に
重要だ。マスメディアは「分からない」と言
いたがらない悪癖が抜けない。

画像


メキシコで結婚したばかりのカップルがマスクのままキスをする珍風景。5月4日夕刻、アメリカのCNNテレビが報じたものを複写。





図説日本のマスメディア第2版
楽天ブックス
NHKブックス 著者:藤竹暁出版社:日本放送出版協会サイズ:全集・双書ページ数:289,発行年月:2

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へ面白い ブログ気持玉 13 / トラックバック 0 / コメント 0


第454回 松本清張の忘れえぬ一言

2009/04/26 11:33
 1909年に生まれた作家、松本清張は今
年、生誕100年を迎える。北九州市にある
松本清張記念館を見学した。高等小学校卒の
遅咲きの多作作家で、入館すると壁に飾られ
た全作品の表紙の壮観に迎えられる。

 数時間かけてゆっくり見たいと思いながら
歩いていると、清張の録音再生の声が耳に流
れてきた。その一言が耳に残っていまも離れ
ない。「先入観にたつ判断を疑ってかかるこ
とから、真実に迫っていく」。そんな意味で
あった。社会派ミステリー作家として真相究
明にエネルギーを注入した清張らしい。

 先入観にとらわれた判断や認識が世の中に
はん濫する時代である。ソマリア沖の海賊に
世界の船舶がほんろうされ、日本もついに海
上自衛艦を派遣した。海賊がなぜ出没するの
か。ソマリア政府が機能しないからという。

 それから先に議論は進まないが、フランス
のメディアは「海賊の始まりは漁民。先進国
の大型漁船がソマリア沖で乱獲したため漁民
の生活が崩壊したからだ」と伝えている。と
すれば問題の発端がどこにあるのか再考しな
ければならず、「悪い海賊を武力で懲らしめ
るのは当然」との先入観が揺らいでくる。

 北朝鮮の核開発やミサイル開発のそもそも
の動機はなにか。北朝鮮の北方のロシア、西
方の中国はともに核やミサイルを持つ。韓国
と日本はアメリカが核兵器とミサイルの傘で
守っている。核もミサイルも無かった北朝鮮
は「不安だろう」と推測すれば「脅威をばら
まく北朝鮮」の先入観が揺らぎ始める。

画像

松本清張の生誕100年をうたう清張記念館の案内パンフレット。2009年4月25日見学。「巨大な人間劇場は日々開幕する」とあり、館内を歩くうちその通りと思えてくる。



松本清張傑作短篇コレクション(下)
楽天ブックス
文春文庫 著者:松本清張/宮部みゆき出版社:文藝春秋サイズ:文庫ページ数:462p発行年月:2004

楽天市場 by ウェブリブログ

松本清張あらかると
楽天ブックス
光文社知恵の森文庫 著者:阿刀田高出版社:光文社サイズ:文庫ページ数:466p発行年月:2008年0

楽天市場 by ウェブリブログ

松本清張傑作短篇コレクション(上)
楽天ブックス
文春文庫 著者:松本清張/宮部みゆき出版社:文藝春秋サイズ:文庫ページ数:541p発行年月:2004

楽天市場 by ウェブリブログ
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 9 / トラックバック 0 / コメント 0


第453回 公正・真実のメディアのつらさ

2009/04/21 16:25
 つくづく懐かしいのは、メディアが公正・
真実の立場守り、対立する双方から一目置か
れてさまざまな便宜をはかってもらえた時代
である。いま、メディアやそこで発言する者
に対して実に冷ややかなまなざしを感じる。

 北朝鮮の「発射」問題について日本政府は
国連安保理の非難決議をめざして動いた。韓
国やアメリカも当初は同調。「北朝鮮はまた
ルールを破った。代償なしにすまされまい」
と警告したのはオバマ米大統領だった。中国
とロシアは早くから決議に消極的であり、日
米韓 v s 中ロの構図がすぐできた。

 国連安保理の意思表示には、決議、議長声
明、報道声明の3種類がある。この順で弱く
なり、議長声明は拘束力がなく、報道声明は
公式の記録にさえ残らない。中国が報道声明
をと言い出したところで方向性が見えた。

 「アメリカと中国の中間をとって議長声明
に落ち着くだろう」と。やがて米中による議
長声明案がでまわる。後退せざるを得ない日
本は「形式はともかく議長声明の内容には強
いメッセージを」と言い替えた。たしかに議
長声明は強い調子になり、日本政府は「日本
外交の勝利だ」と宣伝し始める。
 
 政府はそう言いたいだろう。だがもう一つ
の重要な側面、つまりその声明には拘束力が
なく各国は従わなくてもよいとの事実に、政
府は触れたがらない。メディアはその両面に
注意を喚起しないと真実を求める公正な報道
とはいえない。その真実をつらぬくメディア
は「政府の敵」とみなされてしまう。

 
画像


中国と北朝鮮の国境の街、丹東には北朝鮮のビジネスマンがたくさんいる。北朝鮮系の観光土産店やレストランもある。レストランでは食事の合間に美女がステージに現われて唄ったり踊ったりする。「美女軍団」や「喜び組」の一種かもしれない。2008年10月、そんなレストランで唄っていた北朝鮮系の従業員の一人を撮影。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 14 / トラックバック 0 / コメント 0


第452回 心を開き国を開くもの

2009/04/14 20:26
 外国で暮らしていると滞在許可、つまり滞
在ビザがいつまで有効だったかが気になるも
のだ。日本に帰ればその心配はなくなる。犯
罪者でなければ自分が所属する国家のあるこ
とは、強い安心感のもとになる。

 不法入国者が幾年も滞在し、その国で生ま
れた子どもがその国の学校に入って卒業した
りすると、もうその国を離れがたくなってし
まう。不法入国の罪が消えたような錯覚を持
ちやすい。だが不法入国者の身分は消えては
いない。その隠れた犯罪がある日暴露される
と悲劇が起こる。

 日本でも女生徒の娘を残して両親が国外退
去の処分を受けてフィリピンに帰国した例が
あったばかりだ。アメリカでは9・11事件
のあと、暴露された不法滞在者の扱いが急に
厳しくなり、悲劇があとを断たない。

 アメリカ映画『扉をたたく人』はそんな問
題を浮きぼりにした。ニューヨークは9・1
1を経て外国人に門戸を閉ざした形だが、他
者への思いやりが門戸も心も開くカギだと示
唆している感動作である。主演のリチャード
・ジェンキンスは2009年度のアカデミー
賞の主演男優賞にノミネートされた。

 試写会で見た私の感想は「法律だけで処理
しては人間社会は幸せにならない」との思い
を強くした。なぜこんな人間悲劇を起こさね
ばならぬのか。なぜ人間のつくった制度はこ
んなに冷酷なのか。この静かで質がよく力強
い作品がこれほどの感動を与えるのはなぜな
のか。いくつも考えさせられる名作である。

画像


『扉をたたく人』の解説プログラムの表紙。アフリカで使われる楽器ジャンベを駅のホームでたたき続けるのが主役のリチャード・ジェンキンス。映画のラストシーンである。
記事へ面白い ブログ気持玉 11 / トラックバック 0 / コメント 0


第451回 中国版「医師と患者の間」

2009/04/11 02:09
 変化する中国、その一つは医療の世界であ
る。医師と患者の関係はしばしば強者と弱者
の関係になる。その極端な例は、医師が患者
に金品をねだることだ。患者が退院するとき
アンケートを求められる場合がある。

 あなたは「医師になにか金品を与えました
か」「医師から金品を要求されましたか」と
いった内容。つまり金品のやりとりが目にあ
まるのでそれを防ぐためのアンケートであっ
て、そんな調査をする病院は良心的といって
よい。胸に「共産党員」のバッジをつけた医
師には良心的な者が多いともいわれる。

 党員はみずからを犠牲にして人民のために
働き、人民を守る。それが党員の初期の理想
像であり、胸のバッジはその意思をはっきり
アピールしているのだそうだ。おねだりをす
るのはバッジをつけていない医師に多いとい
うことになる。驚くべき例を聞いた。

 「日本でも医師に金品でお礼をする悪習が
あります」といったら、北京に長く住んでい
る日本人は「でもそれは診療が終わったあと
のことでしょう」といった。私は耳を疑って
しまった。中国では診療を始める前に医師が
患者に「秘かな礼金」の打診し、額によって
診療内容が変わるというのだ。

 最悪の場合、手術前に、いや手術台にのせ
られた患者がそんな打診を受ける。これはた
まったものでない。金額の折り合いがつかず
患者がよその病院にうつることもあるそうで
ある。アンケート調査する病院が現われたの
は良き兆候といえる。中国政府が医療改革を
急ぎ始めたのは、こんな現実があるからだ。









記事へ驚いた ブログ気持玉 10 / トラックバック 0 / コメント 0


第450回 選挙屋の沈黙と保険

2009/03/31 16:01
 民主党の小沢党首の去就について、退陣論
と続投論が交錯している。民主党内も政府自
民党内も、それをかたずをのんで注視してい
る。政権交替の成否を左右する動きだからで
ある。決めては選挙にプラスかマイナスか。
 
 麻生総理が「株屋」とうさんくさそうに呼
んだら、「政治屋のくせに」とか「いや選挙
屋じゃないか」と逆襲された。すべての国会
議員がいまや選挙屋になってしまった。選挙
となれば世論の反応だが、その世論もまだ読
み切れない。というよりも世論は移ろい安い
から、調査のタイミングが問題になる。

 小沢党首の秘書が起訴された直後のいくつ
かの世論調査では、小沢氏や民主党に世論は
逆風を強めた。タイミングからして当然であ
る。千葉県知事選挙で民主党候補が負けたが
これは小沢氏の秘書の問題と関係ありや。

 少々との解釈が多い。民主党候補は知名度
も無し、しかも出遅れていたからだ。やがて
自民党の二階大臣の周辺に捜査の手が及び始
めている。仮に二階氏の秘書が逮捕または起
訴された段階で世論調査をすれば、逆風は自
民党に向かう可能性が強い。となれば政治家
はしばらく沈黙せざるをえない。
 
 その中で政治家は自分の保身を考える。も
し小沢氏が党首を辞したとき有力な後継候補
と目される岡田克也氏は、小沢続投支持を明
言した。その真意は政治的なものらしい。後
継候補として現実に浮上したとき小沢氏から
支持されたい、妨害されたくないーーそれが
岡田氏のかけた政治的保険と見る。




 









 
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0


第449回 「料金はご自由に」の哲学と知恵

2009/03/26 10:22
 私がワシントンD C で仕事をしていた4半
世紀前、休日の楽しみはフィリップス美術館
をのぞくことであった。とくにモネの名作を
所蔵していることで有名であり、週末には館
内でコンサートも開いてくれた。

 で、入館料はといえば自由。原則タダ、感
銘を受けたら「いくらでも下さい」と入り口
ではなく出口に箱が置いてある。たいていの
人は数ドルはらっていたようだ。日本の美術
館の多くが千円以上、なかには2千円ほども
要求されるたびに思い出す。なぜそれが可能
なのか。答えは簡単。

 富豪が「皆さんのおかげで儲けさせていた
だきました。集めた世界の名画をお見せして
還元したいのです」と考えた結果だ。答えは
簡単だがその実行は簡単でない。哲学がそこ
にからんでくるからだ。

 似た話がスペインから飛び込んできた。あ
るレストランがメニューから料金を消したの
だ。数種類の定食からひとつを選びオードブ
ルと一緒に注文する。「料金は自由」とした
その結果はどうだったか。他の客に見えない
よう小封筒を用意してあるから小額でもよい
のだが。ほぼいつもと同じ額が入っている。

 赤字になったことはない。評判になって客
はむしろ増えた。経済不況で客足の減りに対
応したのだが、成功だった。これを日本でや
ったらどうだろうか。無銭飲食が増える、い
や少なめのお金は払っていくだろう、つりは
いらないといつもより余計払う人もいるので
は、など見方はさまざまだが。

画像


スペインで「料金自由」のレストランを営むガルシアさん。スペインTVEテレビから複写。頭の中をじっとのぞき込んでみたい。
記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


第448回 芸術家の感性・俳人の感性

2009/03/24 13:18
 M さんというテナーサックスの奏者。ある
日、ウイスキーを飲んでいて食道がチリっと
する違和感があった。すぐ内視鏡の検査を受
けたら小さな食道ガンが見つかった。小指の
頭の何分の一ほどの小ささだった。

 あまりに小さいのでガン検診を受けても発
見できなかったほどで、このエピソードを紹
介する帯津良一医師は「これぞ芸術家の感性
だと感心した」と驚いている。カンや感性の
力は私も実感するが、それらに頼りすぎると
とんでもない結論をだしかねない。あえて感
性の力の例をもうひとつ紹介したい。

 さる1月末に発刊の俳句集『新年』を著者
から送っていただいた。著者の長谷川櫂先生
は朝日新聞の俳壇で選者をつとめている。新
年早々にふさわしいタイトルにまず感心。そ
れ以上に帯の一句「眠りいてときおり山は動
くらん」にびっくりした。

 ちょうど浅間山が噴火をしていた。やがて
桜島も新しい噴煙をあげ始めた。まさに眠っ
ているかに思われた山が動いているではない
か。なんというカンのよさだろう。俳人特有
のなにかがあると思わざるをえない。とくに
季節に敏感な俳人だから、自然や自然現象に
対してのカンは特別の冴えがありそうだ。

 カンとはなにかはとても説明しにくいもの
らしい。カンが当たることはたしかにあるの
だが、はずれることもある。江戸習俗の専門
家がグローバリズムの危険性を説くにあたっ
て鎖国が有効だと述べたことがある。とんで
もない時代錯誤。専門外の問題をカンで解決
しようとした「頼り過ぎの失敗」だ。

画像


「・・・山は動くらん」の句を表紙帯にうたった句集。その刊行にタイミングをあわせるかのように、浅間山や桜島が噴火を始めたのだった。なお「眠りいて・・・」の「い」は古い文字なのだがパソコンが無知で表記できません。失礼。
記事へ面白い ブログ気持玉 11 / トラックバック 0 / コメント 0


第447回 事実確認しない悪習?

2009/03/18 10:06
 東京のキー・テレビ局である番組を7年間
続けたときのことだ。ある話題について「面
白いけど本当かな」と私がいったとき担当の
プロデューサーが見せた反応を忘れない。そ
れはかれの本音と私には思われた。

 「面白いネタがあったら確認する前に伝え
ろ」である。大いに驚いたのだが、そういう
世界なのかと感心、というより寒心した次第
だ。前回、大誤報について書いた。原因は確
認不足である。するとまたまた日本テレビの
誤報で社長が辞任した。誤報の背景に不明点
が多いが、基本は確認不足である。

 日本テレビの場合は、まずタレコミがあっ
た。「面白い情報がありますよ」と市民から
売り込んできたのだ。「岐阜県庁の裏金づく
り」である。ニュース価値は大。取材側はト
クダネだとばかりに興奮した。

 市民は「裏金に関係する口座」といって改
ざんした「口座記録」まで用意した。確認の
ポイントは二つ。その市民がどんな人物なの
か、岐阜県庁はどう反応しているか。そのど
ちらも取材が十分でなく、結果は市民がテレ
ビ局からの謝礼欲しさのデタラメ話とわかっ
た。おそまつきわまる誤報である。

 ジャーナリスト時代、私も世界を揺るがし
かねない「情報」を手にしたが、信ぴょう性
にわずかな疑問が残るために、泣く泣く胸に
しまったことがある。日本テレビ問題で印象
に残ったのは、辞めた社長の「社長辞任にあ
たいする問題と認識する現場記者がどれだけ
いるか」という嘆きである。






記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 5 / トラックバック 0 / コメント 0


第446回 大誤報と不均衡報道

2009/03/16 14:50
 ジャーナリストの駆け出し時代、私は記者
と呼ばれずトロッコと呼ばれていたころであ
るが、とても恥ずかしい誤報をした、東海道
線のある駅で乗客の学生がホームのベルを操
作して特急の発車を遅らせたというのだ。

 他の乗客から「 X X 大学の学生がたくさん
乗っていた」と聞いた。その大学の近所に住
んだことのある私は、乱暴なバンカラ的気風
で有名な大学だと理解していた。だから何の
疑いもはさまずに、大学の名前まで出してイ
タズラ学生を糾弾する記事を書いた。結果は
最終確認を怠った大きな間違いであった。

 柔道の大会に参加するため、いくつかの大
学の柔道選手が同じ車両に乗っていて、イタ
ズラしたのは別の大学の学生だとわかり、私
が名前を出した大学の当局者は強く抗議して
きた。大学の名誉に関わる問題になった。

 それを思い出したのは中川昭一氏がバチカ
ン博物館で制限区域に入って警報が鳴ったと
の報道がまったく違い、警報など鳴らないし
注意も受けなかったと反論している報道に接
したからだ。「帰国後にバチカン側に確認し
た説明とも報道はまったく違う」そうだ。誤
報したメディアは事実確認を怠ったのか。

 バチカン訪問前の「もうろう会見」の責任
は中川氏も認めているが、繰り返された「も
うろう会見」騒ぎの陰で、 G 7経済閣僚会議
の内容が忘れられた。共同声明で「中国の経
済刺激策を評価する」と特定の国名をあげて
いるのは異例のことで、大きなニュース価値
がある。報道のバランスを欠いたのだ。

 
画像


3月15日、朝日新聞は中川氏が「警報は鳴っていない」と朝日ニュースターTV番組で反論したことを伝えている。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 9 / トラックバック 0 / コメント 0


第445回 「麻生と小沢」は龍馬とお瀧か?

2009/03/12 18:15
 高知の坂本龍馬記念館ののぞいてたら、珍
しい説明に出あってニコリとした。英雄でも
ない、また暴れん坊でもない、実に人間的な
一面である。龍馬と妻のお瀧。その夫婦関係
はかなり興味深い。

 下の写真をご覧ください。龍馬はお瀧のこ
とを「妙な女だ」と書いているが、お瀧も龍
馬のことを「ソレはソレは妙な男でして」と
語っている。そんな説明からみて、2人はケ
ンカばかりしていたかといえばそんなことは
決してない。変わり者同士で、よほど気があ
っていたようだ、とあるではないか。

 龍馬は乙女に「お瀧は常日頃から言いつけ
をよく守る」と手紙に書いており、仲むつま
じい姿が目に浮かぶようだ。互いに相手を変
人扱いしながらやはり魅かれるものがあった
のかもしれない。意気に感じたか打算か。

 現代政治でも似たことはある。自民党の麻
生首相と野党第一党の民主党の小沢党首。相
手を敵と見なし、相手の打倒に最大のターゲ
ットを置いている。小沢は麻生をついに追い
つめたと思わせたとたん、小沢の公設第一秘
書が逮捕された。麻生の自民党は大喜びで反
転攻勢に出るかと自民党内は色めき立った。

 ところが、双方の本音はかなり違う。小沢
民主党は支持率の低い麻生相手で選挙を闘い
たい。麻生自民党もスキャンダルに包まれそ
うな小沢民主党が続いていて欲しい。ともに
相手がトップをすげかえて若返りしたりする
ことを恐れている。ともに選挙しか頭にない
からそうなる。権力政治の極致である。

画像


坂本龍馬と妻、お瀧の関係を説明した部分。2009年1月14日、高知市の坂本龍馬記念館で許可を得て撮影。
記事へ面白い ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0


第444回 カネを恐れるべき職業

2009/03/06 22:43
 秘書とは参謀ではなく、いわば事務取扱い
人である。複数の秘書をかかえると秘書の仕
事にランクづけがなされる。政治家の第1秘
書となれば「金庫番」でもあり、政治家に代
わって交渉やトラブルの火消しにあたる。

 民主党の小沢代表の第1秘書が逮捕されて
その任務が「金庫番」とわかった。またして
も政治家とカネの問題である。カネの扱いに
細心の注意をはらうべき職業の筆頭が政治家
である。お返しが疑われるからだ。カネに潔
癖な政治家では小泉元首相。プレゼントが贈
られてきてもすべて送り返したそうだ。

 民主党の岡田克也氏もカネにはきれいとの
定評だ。頼み事に行った業者によれば、かれ
は「あめ玉ひとつ受け取らない政治家」だと
いう。政治家にたかる人間もいる。外遊する
政治家に連れられた政治評論家だ。

 その場面を目撃した私は以来、かれの書く
政治評論を信用しない。政治家にたかりに行
った政治学者が、もらったカネが多いとか少
ないとか、公然とテレビでしゃべっているの
を見てあきれてしまった。意地きたない学者
の典型例だ。金品をねだってはならぬ職業が
ほかにもある。医者、教師、宗教家などだ。

 どうしてもカネをねだりたいのなら、その
職を辞めてからにすべきだ。瀬戸内寂聴さん
は「立派な建物を建てる宗教団体は信用する
な」とおっしゃる。その通りだろう。患者に
金品をねだる医師も悪質だ。患者の弱みにつ
けこんでいるからだ。患者は人間性ゆたかな
医師に出会うと心から癒される、のに。



 

 
記事へナイス ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0


第443回 「世界というマナ板」にのせる 

2009/02/27 19:38
 私たちは日本人は日本に関係することに注
目する。当然である。だから日本人が外国で
入賞すると大喜びする。芸術でもスポーツの
世界でも同じである。政治の世界でもそうで
あるが、騒ぎすぎるとおかしくなってくる。

 最近の自民党のゴタゴタもその典型だ。与
党だから無視するわけにはいかないが、しょ
せんはコップのなかの争いにすぎず、国際ニ
ュースにはなりにくい。つまり出来事を過大
評価する危険がある。政治家が外国へ行って
相手国の首脳とあうと「はっきり主張した」
とか「存在感を示した」と報道される。

 主張した結果どのような効果があったのか
は触れられない。存在感があったとは「テレ
ビに映った」とほぼ同義語である。そんな報
道に接した当人が陶酔するのは自由だが、国
民まで妙に誇らしくなるのは無意味だ。

 「おくりびと」が外国語部門のアカデミー
賞をとって日本中が大騒ぎした。短編アニメ
賞も日本の「つみきのいえ」がとった。これ
も大騒ぎである。二つの作品が同時に入賞し
た快挙とか、数十年ぶりの受賞とか、そんな
いい方で付加価値がついている。日本にとっ
てはたしかに快挙であり、大ニュースだ。

 国際的に見るとどうか。イギリス人監督の
「スラムドッグ$ミリオネア」ひとつでなん
と8部門のアカデミーに輝いたのだ。私もす
でに試写会で見たが、入賞間違いなしと確信
した。8部門は作品賞など大きな部門ばかり
なのだ。日本がらみの出来事は「世界という
マナ板」にのせてみることが大切だ。

画像


作品賞など大きなアカデミー賞を8部門で獲得した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の宣伝広告。スラムに育った少年がクイズで大金を手に入れる。教育も受けていない少年だが、貧しい生活の過程で身につけた体験的知識が生きた。活字や映像から学ぶ知識よりも、体験で得た知識は重い。金目当てでクイズに挑戦したわけでないことも作品に厚みを与える。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 9 / トラックバック 0 / コメント 0


第442回 「湿っぽい惰性」では政治を転換できぬ

2009/02/26 18:14
 第二次世界大戦に勝利したばかリのイギリ
スの政治を、いま思いだしたい。ナチスドイ
ツのロンドン空襲に苦しめられながら、勝利
の英雄になったウィンストン・チャーチルは
1945年7月の総選挙を迎えた。

 有権者の反応は衝撃的である。チャーチル
は当選したものの、かれをささえてきた保守
党を敗北させたのだ。保守党を193議席と
いう過半数割れに、そして労働党を381議
席と大勝に導いた。保守党政権からクレメン
ト・アトリー労働党政権になった。戦勝の英
雄を政権から引きずり落とした意外。

 選挙民は判断した。「チャーチルよ、戦争
に勝ってご苦労さん。あんたの役目はそこで
終わり」と呼びかけ、アトリー政権には「戦
後の仕事にはげんでね」と期待した。アトリ
ー労働党政権は、戦後の復興に、福祉国家の
建設に、と汗をかくのである。

 2月24日、広島県福山市を訪れた。宮沢
喜一・元首相の地元である。有力者が口を開
いた。「福山にはほとんど帰ってこなかった
方」と不満顔。「なぜ宮沢さんに投票したん
ですか」「ま、地元の人だから偉くなって欲
しいし」「総理になったでしょ」「こんどは
ね、偉くなった人を落とせないんだ」。

 気持の上では地元と縁がうすい。地元にと
くにプラスになる政治家でもなかった。いま
も「自民党はダメになったな」と嘆きながら
もまた自民党に投票する。イギリス国民と違
って「自民党の役目はもう終わった」とはな
りにくい。「湿っぽい惰性」といおうか。こ
れでは政治の大転換はできない。

画像


山陽新幹線福山駅前に位置する福山城。2009年2月25日撮影。一部は伏見城から移築、一部は再建。徳川譜代の臣、水野勝成が築いた。内部は博物館になっており、地階から最上階の展望台まで福山の歴史と文化がびっしり展示されている。宮澤喜一はこのあたりを地盤とした。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0


第441回 悪いニュースに馴れる怖さ

2009/02/19 15:55
 ドバイ。ぺルシャ湾の中のアラブ首長国
連邦は7つの首長国でできている。その一
つがドバイ首長国だ。40年ほど前、初め
てここを訪ねたとき、ひなびた漁村か漁港
のおもむきを呈していた。

 それがここ数年、まるで太陽の輝きにも
増すほどのきらびやかな開発ぶりが報じら
れていた。中東のリゾート地というよりも
世界のリゾート地の感もあった。下に示し
た写真はあるクレジット・カード会社の宣
伝雑誌がついさる1月、ドバイを特集した
号の表紙である。

 「奇跡を散りばめた究極のリゾート。ド
バイ、比類なき進化」との大見出しだ。中
を見ると「砂漠に甦った古のアラビアの王
国」あるいは「それは夢、未来、そして可
能性」などの文字が踊る。

 世界的な金融危機であっという間に逆風
が襲った。いまごろ頭を抱えている雑誌の
編集者に同情したい。ドバイ政府は200
9年度(09年1―12月)が初の赤字予
算となった公表、ドバイの最大手の建設会
社エマールは「着工済みの事業の完成」に
集中し、新規着工の見合わせを決めた。

 アメリカの大手格づけ会社ムーディーズ
によると、2009 年に借り換えが必要と
なる湾岸産油国の債務は330億ドル。うち
ドバイが150億ドルで突出した借金国に転
落した。危機の震源アメリカの雇用もオバ
マ政権発足の1月から急に冷え込んだ。脅
威は悪いニュースに驚かないことだ。

画像


大手クレジット・カード会社「VISA」の宣伝雑誌の2009年1月号の表紙。ドバイ特集号らしい写真が飾られており、金融危機の暗雲の気配はまったく感じられない。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0


第440回 姜尚中(カン・サンジュン)氏の運命のお尻

2009/02/19 09:13
 自分のお尻が大きいかどうかは、女性だけ
の関心事ではない。ある種の男性にとって自
分のお尻のすがた型は一生を左右するたいせ
つな条件である。そのことを確信させられた
最近の経験を書きたい。

 東京大学の大学院で教えるカン教授は少年
のころ野球好きだった。母親も息子がやがて
野球選手になってくれることを願った。だが
願いはかなわなかった。それがまさにお尻に
関係するのである。カンさん自身の話による
と、いま身長180センチ、体重70キロ前
後。見るからに細身である。

 少年時代も体型は似ていた。仲間と練習を
していて気づいた。優秀な選手は共通してお
尻が大きい。にもかかわらず自分は、と振り
返ってみると、野球選手としての将来性に絶
望してしまう。これがカンさんの述懐だ。

 かれの話を聞きながら東洋医学のY 医師を
思い出していた。やはりスポーツ選手とお尻
の関係をわたしに説いて下さった。「お尻は
大事です。選手をとるときも、お尻を見れば
いいのに」。面接よりお尻観察だとのユーモ
アのある話にのって、わたしも「先生はプロ
野球のスカウトになれますね」と応じた。

 野茂や松坂といったメジャーで名をあげた
投手はお尻ががっちりしている。下半身の骨
格や筋肉の状態がパワーの出し方に大いにか
かわる。それは医学的にも十分説明できるそ
うだ。小さいお尻のせいで野球への夢を捨て
たことを、カン先生は残念に思っているかど
うか、それをたずねる機会はまだない。




記事へ面白い ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0


第439回 解釈力の無い者は生きにくい

2009/02/17 17:59
 「あらゆる事実は解釈である。情報は解釈
が加わって意味をもつ」。故エドワード・サ
イードはかつてそう書いている。事実も情報
も自分で解釈できない者は現代社会では生き
ていきにくい。わたしはそう考える。

 東京・渋谷で開催中の展覧会を見ていっそ
うその思いを強くした。「20世紀のはじま
り。ピカソとクレーの生きた時代」と題する
美術展を見て歩いた。説明を読みながら「謎
である」「謎を深めている」などの表現にい
くつもぶつかった。作者はもちろん亡くなっ
て長い年月がすぎている。

 したがって謎があっても作者に聞くわけに
いかない。そこで解釈が求められる。解釈を
する人は時代によって違う。だから一枚の絵
の解釈は時代によって変化していく。解釈し
だいで事実ないし真実も変わっていく。

 万事、そうである。世の中に断定できるこ
とは少ない、とかねてから私が主張するのは
そんな理由からである。医学についても同じ
である。西洋医学では理論を患者にあてはめ
て治療方針を決める。でも理論のあてはめ方
やそこから導き出される治療方針は医師によ
って異なることがしばしばである。

 「東洋医学は経験医学である。経験の積み
かさねの中にこそ真理がある」と鍋谷欣市医
師はいう。どの医師も経験ゼロから始めてお
り、経験が積みかさなるたびに真理も変わっ
ていく可能性を秘めている。研究と理論が進
んだ西洋医学も経験医学の面が強い。だから
いよいよ断定はむずかしくなってくる。

 
画像


東京・渋谷の東急文化村で開催中の「ピカソとクレー」展の入場半券。第一次世界大戦やロシア革命、ナチスドイツの台頭などダイナミックな時代背景が反映された作品が多いが、解釈は微妙である。歴史の解釈のむずかしさを思わせる。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 9 / トラックバック 0 / コメント 0


第438回 謝るだけでいいのか

2009/02/11 09:30
 ケネディ政権下でインド駐在大使をつとめ
たケネス・ガルブレースはハーバード大学教
授から起用された著名な経済学者。知性でか
ためたケネディ政権らしい人事だった。かれ
の忘れられない名言がある。

 「大企業のトップのサラリーとは業績に対
する相場のような報酬ではない。しばしばそ
の人物が自分に対して示す暖かい個人的ジェ
スチュアといった性格を持つものだ」。なる
ほどと思わせる。最近もアメリカの大企業の
トップが税金による救済を期待しながら、み
ずからに巨万のボーナスを与えていた。

 オバマ大統領は「恥を知れ」と大統領らし
くない非難の言葉を浴びせた。納税者の気持
を代弁した大統領の反応であり、強い納税者
意識に動かされたものだろう。大統領は企業
幹部の所得に上限を設ける意向である。

 政治が民間企業の給与にまで介入するのは
異例のことではあるが、政府の役割拡大を目
ざす「大きな政府」論に立つ民主党の指導者
らしい言動でもある。大統領の本意を分かり
やすくいえば「納税者のお世話になる企業幹
部は少しは遠慮したらどうか」ということだ
ろう。これは一種の議会対策でもある。

 イギリス議会でも大手の金融機関幹部が呼
ばれて「判断を間違った。謝罪する」と頭を
垂れたが、議員たちは「まず謝罪せよ、と専
門家の助言を受けたのか。謝罪よりも、なぜ
判断を誤ったのかを説明せよ。今後どうすべ
きか、も説明せよ」と追い打ちをかける。謝
れば一件落着になりがちな日本とは違う。

 
画像


2月10日、イギリス議会に呼ばれた「破綻』金融機関の幹部たち。BBCテレビの映像から。かれらは「心からお詫びする」とのべた。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 6 / トラックバック 0 / コメント 0


続きを見る

トップへ

月別リンク

浅井信雄の「記憶の細道」  /BIGLOBEウェブリブログ