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浅井信雄の「記憶の細道」  

プロフィール

ブログ名
浅井信雄の「記憶の細道」  
ブログ紹介
@ジャーナリストと研究者の二本道を歩んだ約半世紀の記憶をたどりつつ、いま伝えたい思いを、ほぼ私自身が撮影した写真とともにつづります。
@これは350回におよんだ「憶の細道 明けの道」を改題した続編です。
@「憶の細道 明けの道」のバックナンバーへは、以下からお入り下さい。
 http://web.sankeipro.co.jp/asai/
@写真をクリックすると大きくなります。
@写真・記事の無許可転載を禁止。Copyright(著作権)はASAI Nobuoに帰属。

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第463回 オーストラリアで見た国際結婚のいま

2009/06/30 20:46
 かつてワシントンで知り合ったアメリカ人
のカメラマンは「日本女性と結婚したが誤算
だった。次の妻はベトナム人だが彼女はすば
らしい」と語った。日本女性はなぜ誤算だっ
たのか。むしろ古い思い込みだった。

 日本女性はおとなしくて従順だ。そんな彼
の思い込みがはずれたのだ。「それは予習不
足だ」と私はいった。その調子ではベトナム
人妻ともいつまで持つか、とひそかに思った
ものだ。オーストラリアでも日本人女性とオ
ーストラリア男性との結婚が増えている。同
時にその半分は破局にいたるそうだ。

 その数字が多いか少ないかははっきりしな
い。オーストラリア人同士の結婚も半分くら
いが失敗に終わり、離婚しているからだ。日
本女性とオーストリア男性の破局の原因も冒
頭の日本女性とアメリカ人男性の離婚理由と
同じで、互いの「期待はずれ」である。

 日本女性には妙な「白人崇拝」があり、オ
ーストラリア人男性には「おとなしくて従順
な日本女性」という時代錯誤がある。よくわ
からないのは日本女性とオーストラリア男性
の間の国際結婚は増えているのに、日本男性
とオーストラリア女性の結婚ははるかに少な
いことだ。ひとつはバランスの問題。

 オーストラリア女性はイギリス人と同じく
長身が多いが、日本男性はそうでもない。逆
なら奇異に見えない。実はオーストラリア女
性を妻とした日本男性に会った。彼にはいろ
いろ聞きにくいが、第3者は「かれの奥さん
は背が低い」と証言した。それ以上の性格は
わからない。他人は知るすべがない。

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シドニーの有名なオペラハウス方面の夕暮れを抱き合って眺める男と女。2009年6月30日撮影。
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第462回 残酷な美、名誉、誇り

2009/06/24 22:24
 西欧クラシック音楽の専門家から驚くべき
話をうかがった。医者、とりわけ腕ききの外
科医のいる地域では、優れた声楽家が生まれ
る。そういってこの専門家はオーストリアや
イタリアの地名をあげた。

 具体的な話におよんで、たとえば「ウイー
ン少年合唱団の美声」に触れたのだ。わたし
は何を彼がいいだすか直感的に感じ取り、次
の言葉をかたずを飲んで待った。予想通りで
「少年たちにとって最大の脅威は声変わりで
ある」ときた。誰をも感嘆させる美声。声変
わりはたしかに脅威であろう。

 声変わりを回避し、美声を維持するために
はどうすればよいのか。そこで医師、とりわ
け外科医の登場となる。それ以上の話はむし
ろ聞きたくない。残酷な手術を推定させるに
はもう十分であるからだ。

 考えてみれば、人間は美を追求するために
ずいぶん残酷なことをしてきた。耳タブに穴
を開けるイヤリング、足の健全育成に悪いと
知りつつのハイヒール、髪の毛を痛めつける
毛染め、異常な筋肉増強を生み出すボディビ
ルディングやドーピング、細身を目ざすダイ
エット。女性も男性も差がない。

 美の追及、というよりも健康を害し、寿命
を縮める結果にさえなっている。スポーツ選
手は意外に短命である。健康や寿命を犠牲に
しても美やスピードや筋力が必要との考え方
がそこにある。それが現代である。人間の誇
りや名誉・名声もそれを促している。健康で
長生きするだけでは満足できない人間!!

 
画像


クロード・モネ「アルジャントゥイユの泊地の夕日」(1874)。姫路市立美術館の所蔵作品。この絵から感じ取るものは人によって大差がある。穏やかな美、不安な空気、残酷な人生、などなど。
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第461回 ナショナリズムは死なず

2009/06/16 21:21
 鹿児島の名高いホテル、城山観光ホテル
のロビーの一角に見事なガラス細工と陶磁
器の店があり、そこに韓国の金大中・元大
統領と握手する人物の写真が掲げられてい
る。日本と朝鮮半島の歴史がそこにある。

 鹿児島の観光みやげと言えばガラス細工
の「薩摩切り子」であるが、それに劣らず
見事なのは「薩摩焼き」である。薩摩切り
子は薩摩人の知恵と技能の賜である。では
薩摩焼きはといえば、これは朝鮮半島から
の陶工の研鑽の技術の結晶といえる。なぜ
朝鮮半島の陶工が鹿児島にきたのか。

 秀吉の朝鮮出兵に遡ることは常識だ。出
兵した秀吉軍が優れた陶工に目をつけたの
だが、秀吉軍に加わっていた島津藩の島津
義弘がとくに彼らに魅かれて薩摩に連れ帰
ったというのが定説である。

 それだけでも「こりゃ日本による拉致だ
な」とつぶやかざるを得ないが、頑として
朝鮮名を乗る歴代の名陶工、沈寿官の一族
について物語る司馬遼太郎は、地元の驚く
べき説を紹介している。引き上げの兵糧船
が空っぽで不安定なので、約70人の陶工
たちを重し代わりに乗せたというのだ。

 事実とすれば「やれやれ」である。彼ら
の名作はパリ万国博にも出品され国際的評
価も高まるが、一族は錦江湾に近い美山に
ひっそりと集落をつくってきた。そこは故
国の風景に似ているというのだが、やみが
たい望郷の思いがうかがわれる。『故郷忘
れがたく候』が司馬の物語の題名だ。

画像


14代沈寿官(左)が1998年ソウルで催された作品展会場で、駆けつけた金大中大統領(当時)と握手を交わしている。2009年6月、鹿児島・城山観光ホテル内に展示された写真を複写。
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第460回 全盲者がなぜ成功したか

2009/06/15 10:00
 全盲の青年が外国のすばらしい音楽賞を得
た。どうすればあんな快挙が実現するのかの
議論がはなばなしい。私は一般論では語れな
いと思う。優れて個人的なレベルの課題だと
信じている。だから成功例が偉大なのだ。

 「目が見えたとしたら何を見たいか」と問
われて「両親」と答えたのが世の親たちを泣
かせたが、その言葉に次いで「いまでも心の
目で見ています」の一言の方が意味深いと思
う。「目が見えたとしたら」という究極のタ
ラレバの質問を投げるのは残酷である。見え
ないに決まっているではないか。

 「心の目で見ています」の方がクールであ
り本質的である。全盲であるからこそ、その
他の感覚が研ぎすまされることはよく理解で
きる。「研ぎすまされた心の目」や両親との
会話から「想像上の両親の顔」が固まる。

 研ぎすまされた「他の感覚」こそ才能を浮
上させるカギだ。浮上した才能をのばしてあ
げるのは周囲との出会い、相性、さらに信頼
できるコミュニケーションだろう。その部分
はさまざまな個人的な条件に左右される。こ
うすれば成功するとの一般論はまず役立ちそ
うにない。そこがむずかしいところだ。

 障害をもって生まれた人たちで、大成功す
るのはむしろ例外的である。それは個人的な
条件が多彩であって、しかも人間的な環境だ
けでなく、自然環境にさえ左右されると思わ
れるからだ。そんな環境や条件に加えて、粘
り強く努力を続ける本人の意思の力、それら
の綜合が成功へのカとなる。









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第459回 理想論だけで終わるな

2009/06/05 18:26
 中国の天安門事件から20周年。民主主義
の立場から「早く中国は民主化せよ」と叫ぶ
声が聞こえる。私もそう思うが、すぐに民主
化と自由化に切り替わったら、中国社会の大
混乱は避けられないのではないか。

 理想論と現実論である。理想論の主張には
誰も反対しない。誰も反対できない。多くの
マスコミでの議論は理想論を主張するところ
で終わってしまう。実現するにはどんな手順
が必要か。どの組織とどの組織が相談して実
現へ動いていくのか。それを具体的に示して
ほしい。実現可能な道筋を描いてほしい。

 でもそんな議論を聞いたためしがない。そ
れでは無意味ではないのか。主張するだけな
ら誰でもできる。なるほどそうすれば実現す
ると思わせる発言ではなければ無責任という
ものだろう。言いっぱなしでは無意味だ。

 さらに、もしすぐに民主化へ急転換したら
中国社会は大混乱するだろう。その可能性を
封じ込めながら民主化へ切り替えることが可
能だろうか。可能だとする現実的な議論を聞
きたい。経済不況への対応で中国はスピード
感をもって決定と実施に至ったとの評価が多
い。たぶん「非民主的な」手法に頼った。

 決定と実施にかかわったのはトップの10
人以内の作業だった。幹部の一人は「こんな
状況では民主化の遅れもやむをえない」と語
ったそうだ。日本の定額給付金は決定から支
給まで半年もかかった。「不況対策は遅れて
も民主的な手続きでやれ」と説得力をもって
公言できる人が果たしているか。

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北京の天安門前の風景。2008年7月撮影。車と人の雑踏。雨がぱらつき人々の傘姿がまたうっとうしさを付加していた。
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第458回 人間社会の本質は混沌だ

2009/05/24 11:20
 ヘンリー・ミラーの小説『南回帰線』にこ
んな言葉がある。「すべての幻想を捨て去っ
てしまえばあらゆることが判然としてくるも
のだ。そもそもの始めから混沌以外の何もの
でもなかった」。無限の解釈が可能である。

 私は人間の本質をついていると感じた。わ
かりやすくいえば「人間は複雑怪奇であいま
いで謎だらけ」といいたいのだ。脳や遺伝子
が人間解明のカギのような言説が大流行であ
る。これに対して脳原理主義と冷笑する向き
もある。犯罪捜査でのD N A 活用も100%
の確度はないのが現状だ。

 『悪の遺伝子』なるノンフィクションの翻
訳書がでた。精神科医の香山リカは「心の問
題がすべて脳や遺伝子の問題で解決できたと
したら、患者さんははたして幸福なのか」と
書く。精神障害者の立場からのものだ。

 健康法に関連して「免疫」が大流行だ。と
くに新潟大学の安保徹教授の免疫本が人気の
まとである。『こうすれば病気は治る・心と
からだの免疫学』などのタイトルからもうか
がわれるように、わかりすさと単純さが特徴
のようである。これに対して医学ジャーナリ
ストの後藤有能は違和感を感じている。

 ここまで単純化されるとかつて抱いた『形
なき生命の造形、免疫』への畏敬の念が薄れ
る」というのだ。私も「人間には一般論で断
定できることはない。断定できることはない
とは断定できる」と考える。免疫、脳、遺伝
子について断定的な議論に接すると、私は違
和感と抵抗感を抱いてしまう。

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いまわが家で咲いているムラサキ色のバラの花。「紫式部の子孫」と冗談に自称する私の大好きな花。「不況でもバラは裏切りません」との説明をつけて知人に送っている。誰もが喜んで下さる。「意味深ですね」と感動なさる方もいる。私は「千差万別の色を呈しながら毎年登場する花の命の不思議」にいつも感動し「そういえば人間も不思議だらけ」との結論にいたるのだ。



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第457回 政治家の人間的側面

2009/05/21 13:06
 総理在任中の小泉純一郎は東京・丸の内の
タイ・レストラン「マンゴーツリー」を愛用
した。店を出るときキッチンをのぞいて「う
まかったぞ」と必ず声をかけて行った。彼の
人間味を示していて好きな話だ。

 これはレストランの関係者から聞いたエピ
ソードだから真実だろう。その小泉氏の在任
中の大仕事は、なんといってもイラクへの自
衛隊派遣だった。「ブッシュのポチ」とヤユ
されたころの彼の表向きの印象は「気楽に決
めたな」とも受け取られていた。だが実際は
違っていたようだ。

 小泉氏が自衛隊のイラク派遣を決断したと
き、かれは「顔面蒼白だった」との証言があ
る。小泉氏にも仕えた元内閣官房副長官の古
川貞二郎氏の貴重な話である。古川氏の首相
官邸勤務は通算3回。合計15年。

 内閣の要の内閣官房副長官としては8年7
か月の長期におよぶ。国の最高権力者の顔を
終始そばで観察してきたのだからその証言は
価値がある。とにかく戦場へ自衛隊を初めて
出すのだ。憲法違反の疑いも多分にある。戦
闘地域かどうかの追及も野党から受けるの違
いない。全部、承知の上での決断だった。

 そもそもブッシュのイラク攻撃が成功する
かどうかも分からない。それでも決断したの
が小泉氏。「世の中には人知の及ばないこと
があり、全力を尽くした後は祈る」ほかない
との先人の知恵もある。彼も決断のあと祈る
気持であったかどうか。それほどの謙虚な姿
勢を政治家は持っていて欲しい。

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新撰組の沖田総司と恋人との関係を話題にした想像場面。NHKテレビの「歴史秘話ヒストリア」から。彼女は事実上は内縁の妻だったとの説が紹介されている。血を恐れぬ沖田総司の人間臭いエピソード。こういう話を私は好きだ。
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第456回 新インフル「禍」を転じて「福」に

2009/05/06 21:15
 2003年、中国で S A R S が猛威を振る
った。衛生当局が情報を隠したため被害は拡
大し、責任ある政府高官が更迭された。中国
の国際イメージは急降下した。不思議なこと
にその「禍」にも「福」がともなった。

 人々が自家用車を買い始めたのだ。バスな
ど満員の大衆交通機関に乗って、そばにいる
人がゴホンと咳をしたらたまらない。これは
生命にかかわるので、ゆとりのある人は自家
用車を求めて殺到したのだ。そして今日、中
国経済の成長にも後押しされて、中国は世界
一の車の生産国となった。

 新型インフルエンザで中国は世界的にみて
も厳しい警戒態勢をとったが、注目すべきプ
ラスもあった。中国政府が、5月18日から
開かれる世界保健機関(W H O)の総会への
台湾のオブザーバー参加に同意したのだ。

 1971年に国連での席を失った台湾がそ
れ以来、国連関係の会合に参加するのはこれ
が初めてという歴史的意味を持つ。2003
年にも台湾はW H O参加を求めたが、中国は
拒否、人道に反するとの非難を浴びた。昨年
の台湾の馬政権の発足で大陸との関係は深ま
っていたが、新型インフレも後押しした。

 グローバル化とは世界が小さくなることで
ある。アメリカ発の金融不安はあっという間
に世界中へ波及、世界中が協調してそれに対
応した。新型インフルエンザもすぐ世界へ感
染した。それへの対応も世界の協力が欠かせ
ない。「小さな紛争にかかわり合っている場
合ではない」のうねりが高まれば大歓迎だ。

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2007年12月、中国・南京を訪問中の私。いつもマスクをつけていた。特別の感染症の流行期ではなかったが、冬の乾期で空気があまりきれいでなかったので、季節性のインフルエンザ対策のつもりであった。
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第455回 「分からない」を嫌うメディア

2009/05/04 20:56
 北朝鮮の「発射」問題でメスメディアは騒
ぎ過ぎで、たぶん北朝鮮は「日本人は脅しに
弱い国だ」と受け取って、笑い転げていたの
ではないか。問題の核心はマスメディアの一
極集中報道にあることは間違いない。

 ある刺激的な問題が起こるとそればかりに
集中して報道することで、ほかの重要ニュー
スはどこかへ吹き飛んでしまう。それを一極
集中報道という。マスメディアの危険な特徴
のひとつと批判されてきたが、改まる様子は
まったくない。新型インフルエンザでそれは
またも繰り返された。

 「冷静に」というメディアが冷静さを欠い
ていたようだ。政治家にとってはポイント稼
ぎのチャンス到来。政治家もメディアも「悪
い方へ、悪い方へ」と前のめりなった。たと
えばこんな表現である。

 横浜の高校生が感染を疑われて繰り返し検
査を受けた。一部のメディアは「もし新型イ
ンフルエンザと確認されれば、日本国内での
感染者1号となる」と報じた。仮定の話だか
ら間違いではないけれども、そうと確認され
なければニュースにもならない。検査段階で
悪い結果を予測させる必要はないのに。

 検査段階では「結果は分からない」「検査
の結果を待っている」「検査結果が注目され
る」などのいい方にとどめるべきだ。「早い
情報伝達」はたしかに必要である。同時に余
計な不安感を振りまかないこともそれ以上に
重要だ。マスメディアは「分からない」と言
いたがらない悪癖が抜けない。

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メキシコで結婚したばかりのカップルがマスクのままキスをする珍風景。5月4日夕刻、アメリカのCNNテレビが報じたものを複写。





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第454回 松本清張の忘れえぬ一言

2009/04/26 11:33
 1909年に生まれた作家、松本清張は今
年、生誕100年を迎える。北九州市にある
松本清張記念館を見学した。高等小学校卒の
遅咲きの多作作家で、入館すると壁に飾られ
た全作品の表紙の壮観に迎えられる。

 数時間かけてゆっくり見たいと思いながら
歩いていると、清張の録音再生の声が耳に流
れてきた。その一言が耳に残っていまも離れ
ない。「先入観にたつ判断を疑ってかかるこ
とから、真実に迫っていく」。そんな意味で
あった。社会派ミステリー作家として真相究
明にエネルギーを注入した清張らしい。

 先入観にとらわれた判断や認識が世の中に
はん濫する時代である。ソマリア沖の海賊に
世界の船舶がほんろうされ、日本もついに海
上自衛艦を派遣した。海賊がなぜ出没するの
か。ソマリア政府が機能しないからという。

 それから先に議論は進まないが、フランス
のメディアは「海賊の始まりは漁民。先進国
の大型漁船がソマリア沖で乱獲したため漁民
の生活が崩壊したからだ」と伝えている。と
すれば問題の発端がどこにあるのか再考しな
ければならず、「悪い海賊を武力で懲らしめ
るのは当然」との先入観が揺らいでくる。

 北朝鮮の核開発やミサイル開発のそもそも
の動機はなにか。北朝鮮の北方のロシア、西
方の中国はともに核やミサイルを持つ。韓国
と日本はアメリカが核兵器とミサイルの傘で
守っている。核もミサイルも無かった北朝鮮
は「不安だろう」と推測すれば「脅威をばら
まく北朝鮮」の先入観が揺らぎ始める。

画像

松本清張の生誕100年をうたう清張記念館の案内パンフレット。2009年4月25日見学。「巨大な人間劇場は日々開幕する」とあり、館内を歩くうちその通りと思えてくる。



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第453回 公正・真実のメディアのつらさ

2009/04/21 16:25
 つくづく懐かしいのは、メディアが公正・
真実の立場守り、対立する双方から一目置か
れてさまざまな便宜をはかってもらえた時代
である。いま、メディアやそこで発言する者
に対して実に冷ややかなまなざしを感じる。

 北朝鮮の「発射」問題について日本政府は
国連安保理の非難決議をめざして動いた。韓
国やアメリカも当初は同調。「北朝鮮はまた
ルールを破った。代償なしにすまされまい」
と警告したのはオバマ米大統領だった。中国
とロシアは早くから決議に消極的であり、日
米韓 v s 中ロの構図がすぐできた。

 国連安保理の意思表示には、決議、議長声
明、報道声明の3種類がある。この順で弱く
なり、議長声明は拘束力がなく、報道声明は
公式の記録にさえ残らない。中国が報道声明
をと言い出したところで方向性が見えた。

 「アメリカと中国の中間をとって議長声明
に落ち着くだろう」と。やがて米中による議
長声明案がでまわる。後退せざるを得ない日
本は「形式はともかく議長声明の内容には強
いメッセージを」と言い替えた。たしかに議
長声明は強い調子になり、日本政府は「日本
外交の勝利だ」と宣伝し始める。
 
 政府はそう言いたいだろう。だがもう一つ
の重要な側面、つまりその声明には拘束力が
なく各国は従わなくてもよいとの事実に、政
府は触れたがらない。メディアはその両面に
注意を喚起しないと真実を求める公正な報道
とはいえない。その真実をつらぬくメディア
は「政府の敵」とみなされてしまう。

 
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中国と北朝鮮の国境の街、丹東には北朝鮮のビジネスマンがたくさんいる。北朝鮮系の観光土産店やレストランもある。レストランでは食事の合間に美女がステージに現われて唄ったり踊ったりする。「美女軍団」や「喜び組」の一種かもしれない。2008年10月、そんなレストランで唄っていた北朝鮮系の従業員の一人を撮影。
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第452回 心を開き国を開くもの

2009/04/14 20:26
 外国で暮らしていると滞在許可、つまり滞
在ビザがいつまで有効だったかが気になるも
のだ。日本に帰ればその心配はなくなる。犯
罪者でなければ自分が所属する国家のあるこ
とは、強い安心感のもとになる。

 不法入国者が幾年も滞在し、その国で生ま
れた子どもがその国の学校に入って卒業した
りすると、もうその国を離れがたくなってし
まう。不法入国の罪が消えたような錯覚を持
ちやすい。だが不法入国者の身分は消えては
いない。その隠れた犯罪がある日暴露される
と悲劇が起こる。

 日本でも女生徒の娘を残して両親が国外退
去の処分を受けてフィリピンに帰国した例が
あったばかりだ。アメリカでは9・11事件
のあと、暴露された不法滞在者の扱いが急に
厳しくなり、悲劇があとを断たない。

 アメリカ映画『扉をたたく人』はそんな問
題を浮きぼりにした。ニューヨークは9・1
1を経て外国人に門戸を閉ざした形だが、他
者への思いやりが門戸も心も開くカギだと示
唆している感動作である。主演のリチャード
・ジェンキンスは2009年度のアカデミー
賞の主演男優賞にノミネートされた。

 試写会で見た私の感想は「法律だけで処理
しては人間社会は幸せにならない」との思い
を強くした。なぜこんな人間悲劇を起こさね
ばならぬのか。なぜ人間のつくった制度はこ
んなに冷酷なのか。この静かで質がよく力強
い作品がこれほどの感動を与えるのはなぜな
のか。いくつも考えさせられる名作である。

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『扉をたたく人』の解説プログラムの表紙。アフリカで使われる楽器ジャンベを駅のホームでたたき続けるのが主役のリチャード・ジェンキンス。映画のラストシーンである。
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第451回 中国版「医師と患者の間」

2009/04/11 02:09
 変化する中国、その一つは医療の世界であ
る。医師と患者の関係はしばしば強者と弱者
の関係になる。その極端な例は、医師が患者
に金品をねだることだ。患者が退院するとき
アンケートを求められる場合がある。

 あなたは「医師になにか金品を与えました
か」「医師から金品を要求されましたか」と
いった内容。つまり金品のやりとりが目にあ
まるのでそれを防ぐためのアンケートであっ
て、そんな調査をする病院は良心的といって
よい。胸に「共産党員」のバッジをつけた医
師には良心的な者が多いともいわれる。

 党員はみずからを犠牲にして人民のために
働き、人民を守る。それが党員の初期の理想
像であり、胸のバッジはその意思をはっきり
アピールしているのだそうだ。おねだりをす
るのはバッジをつけていない医師に多いとい
うことになる。驚くべき例を聞いた。

 「日本でも医師に金品でお礼をする悪習が
あります」といったら、北京に長く住んでい
る日本人は「でもそれは診療が終わったあと
のことでしょう」といった。私は耳を疑って
しまった。中国では診療を始める前に医師が
患者に「秘かな礼金」の打診し、額によって
診療内容が変わるというのだ。

 最悪の場合、手術前に、いや手術台にのせ
られた患者がそんな打診を受ける。これはた
まったものでない。金額の折り合いがつかず
患者がよその病院にうつることもあるそうで
ある。アンケート調査する病院が現われたの
は良き兆候といえる。中国政府が医療改革を
急ぎ始めたのは、こんな現実があるからだ。









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第450回 選挙屋の沈黙と保険

2009/03/31 16:01
 民主党の小沢党首の去就について、退陣論
と続投論が交錯している。民主党内も政府自
民党内も、それをかたずをのんで注視してい
る。政権交替の成否を左右する動きだからで
ある。決めては選挙にプラスかマイナスか。
 
 麻生総理が「株屋」とうさんくさそうに呼
んだら、「政治屋のくせに」とか「いや選挙
屋じゃないか」と逆襲された。すべての国会
議員がいまや選挙屋になってしまった。選挙
となれば世論の反応だが、その世論もまだ読
み切れない。というよりも世論は移ろい安い
から、調査のタイミングが問題になる。

 小沢党首の秘書が起訴された直後のいくつ
かの世論調査では、小沢氏や民主党に世論は
逆風を強めた。タイミングからして当然であ
る。千葉県知事選挙で民主党候補が負けたが
これは小沢氏の秘書の問題と関係ありや。

 少々との解釈が多い。民主党候補は知名度
も無し、しかも出遅れていたからだ。やがて
自民党の二階大臣の周辺に捜査の手が及び始
めている。仮に二階氏の秘書が逮捕または起
訴された段階で世論調査をすれば、逆風は自
民党に向かう可能性が強い。となれば政治家
はしばらく沈黙せざるをえない。
 
 その中で政治家は自分の保身を考える。も
し小沢氏が党首を辞したとき有力な後継候補
と目される岡田克也氏は、小沢続投支持を明
言した。その真意は政治的なものらしい。後
継候補として現実に浮上したとき小沢氏から
支持されたい、妨害されたくないーーそれが
岡田氏のかけた政治的保険と見る。




 









 
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第449回 「料金はご自由に」の哲学と知恵

2009/03/26 10:22
 私がワシントンD C で仕事をしていた4半
世紀前、休日の楽しみはフィリップス美術館
をのぞくことであった。とくにモネの名作を
所蔵していることで有名であり、週末には館
内でコンサートも開いてくれた。

 で、入館料はといえば自由。原則タダ、感
銘を受けたら「いくらでも下さい」と入り口
ではなく出口に箱が置いてある。たいていの
人は数ドルはらっていたようだ。日本の美術
館の多くが千円以上、なかには2千円ほども
要求されるたびに思い出す。なぜそれが可能
なのか。答えは簡単。

 富豪が「皆さんのおかげで儲けさせていた
だきました。集めた世界の名画をお見せして
還元したいのです」と考えた結果だ。答えは
簡単だがその実行は簡単でない。哲学がそこ
にからんでくるからだ。

 似た話がスペインから飛び込んできた。あ
るレストランがメニューから料金を消したの
だ。数種類の定食からひとつを選びオードブ
ルと一緒に注文する。「料金は自由」とした
その結果はどうだったか。他の客に見えない
よう小封筒を用意してあるから小額でもよい
のだが。ほぼいつもと同じ額が入っている。

 赤字になったことはない。評判になって客
はむしろ増えた。経済不況で客足の減りに対
応したのだが、成功だった。これを日本でや
ったらどうだろうか。無銭飲食が増える、い
や少なめのお金は払っていくだろう、つりは
いらないといつもより余計払う人もいるので
は、など見方はさまざまだが。

画像


スペインで「料金自由」のレストランを営むガルシアさん。スペインTVEテレビから複写。頭の中をじっとのぞき込んでみたい。
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第448回 芸術家の感性・俳人の感性

2009/03/24 13:18
 M さんというテナーサックスの奏者。ある
日、ウイスキーを飲んでいて食道がチリっと
する違和感があった。すぐ内視鏡の検査を受
けたら小さな食道ガンが見つかった。小指の
頭の何分の一ほどの小ささだった。

 あまりに小さいのでガン検診を受けても発
見できなかったほどで、このエピソードを紹
介する帯津良一医師は「これぞ芸術家の感性
だと感心した」と驚いている。カンや感性の
力は私も実感するが、それらに頼りすぎると
とんでもない結論をだしかねない。あえて感
性の力の例をもうひとつ紹介したい。

 さる1月末に発刊の俳句集『新年』を著者
から送っていただいた。著者の長谷川櫂先生
は朝日新聞の俳壇で選者をつとめている。新
年早々にふさわしいタイトルにまず感心。そ
れ以上に帯の一句「眠りいてときおり山は動
くらん」にびっくりした。

 ちょうど浅間山が噴火をしていた。やがて
桜島も新しい噴煙をあげ始めた。まさに眠っ
ているかに思われた山が動いているではない
か。なんというカンのよさだろう。俳人特有
のなにかがあると思わざるをえない。とくに
季節に敏感な俳人だから、自然や自然現象に
対してのカンは特別の冴えがありそうだ。

 カンとはなにかはとても説明しにくいもの
らしい。カンが当たることはたしかにあるの
だが、はずれることもある。江戸習俗の専門
家がグローバリズムの危険性を説くにあたっ
て鎖国が有効だと述べたことがある。とんで
もない時代錯誤。専門外の問題をカンで解決
しようとした「頼り過ぎの失敗」だ。

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「・・・山は動くらん」の句を表紙帯にうたった句集。その刊行にタイミングをあわせるかのように、浅間山や桜島が噴火を始めたのだった。なお「眠りいて・・・」の「い」は古い文字なのだがパソコンが無知で表記できません。失礼。
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第447回 事実確認しない悪習?

2009/03/18 10:06
 東京のキー・テレビ局である番組を7年間
続けたときのことだ。ある話題について「面
白いけど本当かな」と私がいったとき担当の
プロデューサーが見せた反応を忘れない。そ
れはかれの本音と私には思われた。

 「面白いネタがあったら確認する前に伝え
ろ」である。大いに驚いたのだが、そういう
世界なのかと感心、というより寒心した次第
だ。前回、大誤報について書いた。原因は確
認不足である。するとまたまた日本テレビの
誤報で社長が辞任した。誤報の背景に不明点
が多いが、基本は確認不足である。

 日本テレビの場合は、まずタレコミがあっ
た。「面白い情報がありますよ」と市民から
売り込んできたのだ。「岐阜県庁の裏金づく
り」である。ニュース価値は大。取材側はト
クダネだとばかりに興奮した。

 市民は「裏金に関係する口座」といって改
ざんした「口座記録」まで用意した。確認の
ポイントは二つ。その市民がどんな人物なの
か、岐阜県庁はどう反応しているか。そのど
ちらも取材が十分でなく、結果は市民がテレ
ビ局からの謝礼欲しさのデタラメ話とわかっ
た。おそまつきわまる誤報である。

 ジャーナリスト時代、私も世界を揺るがし
かねない「情報」を手にしたが、信ぴょう性
にわずかな疑問が残るために、泣く泣く胸に
しまったことがある。日本テレビ問題で印象
に残ったのは、辞めた社長の「社長辞任にあ
たいする問題と認識する現場記者がどれだけ
いるか」という嘆きである。






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第446回 大誤報と不均衡報道

2009/03/16 14:50
 ジャーナリストの駆け出し時代、私は記者
と呼ばれずトロッコと呼ばれていたころであ
るが、とても恥ずかしい誤報をした、東海道
線のある駅で乗客の学生がホームのベルを操
作して特急の発車を遅らせたというのだ。

 他の乗客から「 X X 大学の学生がたくさん
乗っていた」と聞いた。その大学の近所に住
んだことのある私は、乱暴なバンカラ的気風
で有名な大学だと理解していた。だから何の
疑いもはさまずに、大学の名前まで出してイ
タズラ学生を糾弾する記事を書いた。結果は
最終確認を怠った大きな間違いであった。

 柔道の大会に参加するため、いくつかの大
学の柔道選手が同じ車両に乗っていて、イタ
ズラしたのは別の大学の学生だとわかり、私
が名前を出した大学の当局者は強く抗議して
きた。大学の名誉に関わる問題になった。

 それを思い出したのは中川昭一氏がバチカ
ン博物館で制限区域に入って警報が鳴ったと
の報道がまったく違い、警報など鳴らないし
注意も受けなかったと反論している報道に接
したからだ。「帰国後にバチカン側に確認し
た説明とも報道はまったく違う」そうだ。誤
報したメディアは事実確認を怠ったのか。

 バチカン訪問前の「もうろう会見」の責任
は中川氏も認めているが、繰り返された「も
うろう会見」騒ぎの陰で、 G 7経済閣僚会議
の内容が忘れられた。共同声明で「中国の経
済刺激策を評価する」と特定の国名をあげて
いるのは異例のことで、大きなニュース価値
がある。報道のバランスを欠いたのだ。

 
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3月15日、朝日新聞は中川氏が「警報は鳴っていない」と朝日ニュースターTV番組で反論したことを伝えている。
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第445回 「麻生と小沢」は龍馬とお瀧か?

2009/03/12 18:15
 高知の坂本龍馬記念館ののぞいてたら、珍
しい説明に出あってニコリとした。英雄でも
ない、また暴れん坊でもない、実に人間的な
一面である。龍馬と妻のお瀧。その夫婦関係
はかなり興味深い。

 下の写真をご覧ください。龍馬はお瀧のこ
とを「妙な女だ」と書いているが、お瀧も龍
馬のことを「ソレはソレは妙な男でして」と
語っている。そんな説明からみて、2人はケ
ンカばかりしていたかといえばそんなことは
決してない。変わり者同士で、よほど気があ
っていたようだ、とあるではないか。

 龍馬は乙女に「お瀧は常日頃から言いつけ
をよく守る」と手紙に書いており、仲むつま
じい姿が目に浮かぶようだ。互いに相手を変
人扱いしながらやはり魅かれるものがあった
のかもしれない。意気に感じたか打算か。

 現代政治でも似たことはある。自民党の麻
生首相と野党第一党の民主党の小沢党首。相
手を敵と見なし、相手の打倒に最大のターゲ
ットを置いている。小沢は麻生をついに追い
つめたと思わせたとたん、小沢の公設第一秘
書が逮捕された。麻生の自民党は大喜びで反
転攻勢に出るかと自民党内は色めき立った。

 ところが、双方の本音はかなり違う。小沢
民主党は支持率の低い麻生相手で選挙を闘い
たい。麻生自民党もスキャンダルに包まれそ
うな小沢民主党が続いていて欲しい。ともに
相手がトップをすげかえて若返りしたりする
ことを恐れている。ともに選挙しか頭にない
からそうなる。権力政治の極致である。

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坂本龍馬と妻、お瀧の関係を説明した部分。2009年1月14日、高知市の坂本龍馬記念館で許可を得て撮影。
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第444回 カネを恐れるべき職業

2009/03/06 22:43
 秘書とは参謀ではなく、いわば事務取扱い
人である。複数の秘書をかかえると秘書の仕
事にランクづけがなされる。政治家の第1秘
書となれば「金庫番」でもあり、政治家に代
わって交渉やトラブルの火消しにあたる。

 民主党の小沢代表の第1秘書が逮捕されて
その任務が「金庫番」とわかった。またして
も政治家とカネの問題である。カネの扱いに
細心の注意をはらうべき職業の筆頭が政治家
である。お返しが疑われるからだ。カネに潔
癖な政治家では小泉元首相。プレゼントが贈
られてきてもすべて送り返したそうだ。

 民主党の岡田克也氏もカネにはきれいとの
定評だ。頼み事に行った業者によれば、かれ
は「あめ玉ひとつ受け取らない政治家」だと
いう。政治家にたかる人間もいる。外遊する
政治家に連れられた政治評論家だ。

 その場面を目撃した私は以来、かれの書く
政治評論を信用しない。政治家にたかりに行
った政治学者が、もらったカネが多いとか少
ないとか、公然とテレビでしゃべっているの
を見てあきれてしまった。意地きたない学者
の典型例だ。金品をねだってはならぬ職業が
ほかにもある。医者、教師、宗教家などだ。

 どうしてもカネをねだりたいのなら、その
職を辞めてからにすべきだ。瀬戸内寂聴さん
は「立派な建物を建てる宗教団体は信用する
な」とおっしゃる。その通りだろう。患者に
金品をねだる医師も悪質だ。患者の弱みにつ
けこんでいるからだ。患者は人間性ゆたかな
医師に出会うと心から癒される、のに。



 

 
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第443回 「世界というマナ板」にのせる 

2009/02/27 19:38
 私たちは日本人は日本に関係することに注
目する。当然である。だから日本人が外国で
入賞すると大喜びする。芸術でもスポーツの
世界でも同じである。政治の世界でもそうで
あるが、騒ぎすぎるとおかしくなってくる。

 最近の自民党のゴタゴタもその典型だ。与
党だから無視するわけにはいかないが、しょ
せんはコップのなかの争いにすぎず、国際ニ
ュースにはなりにくい。つまり出来事を過大
評価する危険がある。政治家が外国へ行って
相手国の首脳とあうと「はっきり主張した」
とか「存在感を示した」と報道される。

 主張した結果どのような効果があったのか
は触れられない。存在感があったとは「テレ
ビに映った」とほぼ同義語である。そんな報
道に接した当人が陶酔するのは自由だが、国
民まで妙に誇らしくなるのは無意味だ。

 「おくりびと」が外国語部門のアカデミー
賞をとって日本中が大騒ぎした。短編アニメ
賞も日本の「つみきのいえ」がとった。これ
も大騒ぎである。二つの作品が同時に入賞し
た快挙とか、数十年ぶりの受賞とか、そんな
いい方で付加価値がついている。日本にとっ
てはたしかに快挙であり、大ニュースだ。

 国際的に見るとどうか。イギリス人監督の
「スラムドッグ$ミリオネア」ひとつでなん
と8部門のアカデミーに輝いたのだ。私もす
でに試写会で見たが、入賞間違いなしと確信
した。8部門は作品賞など大きな部門ばかり
なのだ。日本がらみの出来事は「世界という
マナ板」にのせてみることが大切だ。

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作品賞など大きなアカデミー賞を8部門で獲得した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の宣伝広告。スラムに育った少年がクイズで大金を手に入れる。教育も受けていない少年だが、貧しい生活の過程で身につけた体験的知識が生きた。活字や映像から学ぶ知識よりも、体験で得た知識は重い。金目当てでクイズに挑戦したわけでないことも作品に厚みを与える。
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第442回 「湿っぽい惰性」では政治を転換できぬ

2009/02/26 18:14
 第二次世界大戦に勝利したばかリのイギリ
スの政治を、いま思いだしたい。ナチスドイ
ツのロンドン空襲に苦しめられながら、勝利
の英雄になったウィンストン・チャーチルは
1945年7月の総選挙を迎えた。

 有権者の反応は衝撃的である。チャーチル
は当選したものの、かれをささえてきた保守
党を敗北させたのだ。保守党を193議席と
いう過半数割れに、そして労働党を381議
席と大勝に導いた。保守党政権からクレメン
ト・アトリー労働党政権になった。戦勝の英
雄を政権から引きずり落とした意外。

 選挙民は判断した。「チャーチルよ、戦争
に勝ってご苦労さん。あんたの役目はそこで
終わり」と呼びかけ、アトリー政権には「戦
後の仕事にはげんでね」と期待した。アトリ
ー労働党政権は、戦後の復興に、福祉国家の
建設に、と汗をかくのである。

 2月24日、広島県福山市を訪れた。宮沢
喜一・元首相の地元である。有力者が口を開
いた。「福山にはほとんど帰ってこなかった
方」と不満顔。「なぜ宮沢さんに投票したん
ですか」「ま、地元の人だから偉くなって欲
しいし」「総理になったでしょ」「こんどは
ね、偉くなった人を落とせないんだ」。

 気持の上では地元と縁がうすい。地元にと
くにプラスになる政治家でもなかった。いま
も「自民党はダメになったな」と嘆きながら
もまた自民党に投票する。イギリス国民と違
って「自民党の役目はもう終わった」とはな
りにくい。「湿っぽい惰性」といおうか。こ
れでは政治の大転換はできない。

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山陽新幹線福山駅前に位置する福山城。2009年2月25日撮影。一部は伏見城から移築、一部は再建。徳川譜代の臣、水野勝成が築いた。内部は博物館になっており、地階から最上階の展望台まで福山の歴史と文化がびっしり展示されている。宮澤喜一はこのあたりを地盤とした。
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第441回 悪いニュースに馴れる怖さ

2009/02/19 15:55
 ドバイ。ぺルシャ湾の中のアラブ首長国
連邦は7つの首長国でできている。その一
つがドバイ首長国だ。40年ほど前、初め
てここを訪ねたとき、ひなびた漁村か漁港
のおもむきを呈していた。

 それがここ数年、まるで太陽の輝きにも
増すほどのきらびやかな開発ぶりが報じら
れていた。中東のリゾート地というよりも
世界のリゾート地の感もあった。下に示し
た写真はあるクレジット・カード会社の宣
伝雑誌がついさる1月、ドバイを特集した
号の表紙である。

 「奇跡を散りばめた究極のリゾート。ド
バイ、比類なき進化」との大見出しだ。中
を見ると「砂漠に甦った古のアラビアの王
国」あるいは「それは夢、未来、そして可
能性」などの文字が踊る。

 世界的な金融危機であっという間に逆風
が襲った。いまごろ頭を抱えている雑誌の
編集者に同情したい。ドバイ政府は200
9年度(09年1―12月)が初の赤字予
算となった公表、ドバイの最大手の建設会
社エマールは「着工済みの事業の完成」に
集中し、新規着工の見合わせを決めた。

 アメリカの大手格づけ会社ムーディーズ
によると、2009 年に借り換えが必要と
なる湾岸産油国の債務は330億ドル。うち
ドバイが150億ドルで突出した借金国に転
落した。危機の震源アメリカの雇用もオバ
マ政権発足の1月から急に冷え込んだ。脅
威は悪いニュースに驚かないことだ。

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大手クレジット・カード会社「VISA」の宣伝雑誌の2009年1月号の表紙。ドバイ特集号らしい写真が飾られており、金融危機の暗雲の気配はまったく感じられない。
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第440回 姜尚中(カン・サンジュン)氏の運命のお尻

2009/02/19 09:13
 自分のお尻が大きいかどうかは、女性だけ
の関心事ではない。ある種の男性にとって自
分のお尻のすがた型は一生を左右するたいせ
つな条件である。そのことを確信させられた
最近の経験を書きたい。

 東京大学の大学院で教えるカン教授は少年
のころ野球好きだった。母親も息子がやがて
野球選手になってくれることを願った。だが
願いはかなわなかった。それがまさにお尻に
関係するのである。カンさん自身の話による
と、いま身長180センチ、体重70キロ前
後。見るからに細身である。

 少年時代も体型は似ていた。仲間と練習を
していて気づいた。優秀な選手は共通してお
尻が大きい。にもかかわらず自分は、と振り
返ってみると、野球選手としての将来性に絶
望してしまう。これがカンさんの述懐だ。

 かれの話を聞きながら東洋医学のY 医師を
思い出していた。やはりスポーツ選手とお尻
の関係をわたしに説いて下さった。「お尻は
大事です。選手をとるときも、お尻を見れば
いいのに」。面接よりお尻観察だとのユーモ
アのある話にのって、わたしも「先生はプロ
野球のスカウトになれますね」と応じた。

 野茂や松坂といったメジャーで名をあげた
投手はお尻ががっちりしている。下半身の骨
格や筋肉の状態がパワーの出し方に大いにか
かわる。それは医学的にも十分説明できるそ
うだ。小さいお尻のせいで野球への夢を捨て
たことを、カン先生は残念に思っているかど
うか、それをたずねる機会はまだない。




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第439回 解釈力の無い者は生きにくい

2009/02/17 17:59
 「あらゆる事実は解釈である。情報は解釈
が加わって意味をもつ」。故エドワード・サ
イードはかつてそう書いている。事実も情報
も自分で解釈できない者は現代社会では生き
ていきにくい。わたしはそう考える。

 東京・渋谷で開催中の展覧会を見ていっそ
うその思いを強くした。「20世紀のはじま
り。ピカソとクレーの生きた時代」と題する
美術展を見て歩いた。説明を読みながら「謎
である」「謎を深めている」などの表現にい
くつもぶつかった。作者はもちろん亡くなっ
て長い年月がすぎている。

 したがって謎があっても作者に聞くわけに
いかない。そこで解釈が求められる。解釈を
する人は時代によって違う。だから一枚の絵
の解釈は時代によって変化していく。解釈し
だいで事実ないし真実も変わっていく。

 万事、そうである。世の中に断定できるこ
とは少ない、とかねてから私が主張するのは
そんな理由からである。医学についても同じ
である。西洋医学では理論を患者にあてはめ
て治療方針を決める。でも理論のあてはめ方
やそこから導き出される治療方針は医師によ
って異なることがしばしばである。

 「東洋医学は経験医学である。経験の積み
かさねの中にこそ真理がある」と鍋谷欣市医
師はいう。どの医師も経験ゼロから始めてお
り、経験が積みかさなるたびに真理も変わっ
ていく可能性を秘めている。研究と理論が進
んだ西洋医学も経験医学の面が強い。だから
いよいよ断定はむずかしくなってくる。

 
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東京・渋谷の東急文化村で開催中の「ピカソとクレー」展の入場半券。第一次世界大戦やロシア革命、ナチスドイツの台頭などダイナミックな時代背景が反映された作品が多いが、解釈は微妙である。歴史の解釈のむずかしさを思わせる。
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第438回 謝るだけでいいのか

2009/02/11 09:30
 ケネディ政権下でインド駐在大使をつとめ
たケネス・ガルブレースはハーバード大学教
授から起用された著名な経済学者。知性でか
ためたケネディ政権らしい人事だった。かれ
の忘れられない名言がある。

 「大企業のトップのサラリーとは業績に対
する相場のような報酬ではない。しばしばそ
の人物が自分に対して示す暖かい個人的ジェ
スチュアといった性格を持つものだ」。なる
ほどと思わせる。最近もアメリカの大企業の
トップが税金による救済を期待しながら、み
ずからに巨万のボーナスを与えていた。

 オバマ大統領は「恥を知れ」と大統領らし
くない非難の言葉を浴びせた。納税者の気持
を代弁した大統領の反応であり、強い納税者
意識に動かされたものだろう。大統領は企業
幹部の所得に上限を設ける意向である。

 政治が民間企業の給与にまで介入するのは
異例のことではあるが、政府の役割拡大を目
ざす「大きな政府」論に立つ民主党の指導者
らしい言動でもある。大統領の本意を分かり
やすくいえば「納税者のお世話になる企業幹
部は少しは遠慮したらどうか」ということだ
ろう。これは一種の議会対策でもある。

 イギリス議会でも大手の金融機関幹部が呼
ばれて「判断を間違った。謝罪する」と頭を
垂れたが、議員たちは「まず謝罪せよ、と専
門家の助言を受けたのか。謝罪よりも、なぜ
判断を誤ったのかを説明せよ。今後どうすべ
きか、も説明せよ」と追い打ちをかける。謝
れば一件落着になりがちな日本とは違う。

 
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2月10日、イギリス議会に呼ばれた「破綻』金融機関の幹部たち。BBCテレビの映像から。かれらは「心からお詫びする」とのべた。
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第437回 麻薬の倫理感はさまざま 

2009/02/03 11:11
 かつてワシントン郊外のアメリカ人の研究
者のアパートで、小さなパーティ、というよ
りも簡単な食事会があった。招かれた私は珍
しい体験をした。食事も終わり食後酒も進ん
だところで「始めるか」と誰かがいった。

 次いで「マリファナの希望者は?」。10
人ほどいた参加者のうち半分ぐらいが部屋の
外に出た。もちろん私も断わった。しばらく
して部屋に戻るとなんとも形容しがたいナマ
臭い空気が充満していた。たまらなくなって
また部屋の外へ。数人が私に同調した。嫌い
なアメリカ人も意外に多いなと感じた。

 一緒にアメリカで生活していた息子には麻
薬だけは手を出すなと繰り返した。家族みん
な麻薬に汚染されずにいる。アメリカの政治
家が重要ポストにつくときには、麻薬の経験
の有る無しが問題にされることもある。

 「高校生のころ数回やった」などと答えた
大統領経験者もいる。ヨーロッパのオランダ
では「強い麻薬はダメ、軽いのなら黙認」と
いう政策をとる。麻薬のひどい悪影響を阻止
しようとの苦肉の策だ。北京オリンピックの
水泳で8つの金メダルをとったマイケル・フ
ェルプスの麻薬疑惑が報じられた。

 報道したイギリスで発行のニューズ・オブ
・ザ・ワールドは「面白いけどウソも多い」
と定評があり私は半信半疑だったが、本人が
謝罪したところを見ると本当らしい。メダル
剥奪はされない方向だ。日本では若麒麟が大
麻を吸って逮捕され、相撲協会から解雇され
た。麻薬の倫理感はさまざまである。

 
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フェルプス選手が麻薬を吸う場面の写真を掲載したニュース・オブ・ザ・ワールド紙。写真を撮られたくらいだから、本人には罪の意識はあまりなかったのだろう。
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第436回 「使い捨てカイロ」と「使い捨て人間」

2009/02/02 21:02
 世の中に格差が生まれのはある程度やむを
えないにしても、どうしても納得できないこ
とがある。会社の経営に上り下がりがあるの
は当然だが、急激に下がり始めたら社員をあ
っさり解雇し始めたのはどうなのか。

 会社がつぶれたら元も子もなくなる。そう
経営者は解雇を正当化する。そこで議論を止
めていいのだろうか。あんまりばっさりの解
雇が続くと、余分な在庫品の一掃みたいな印
象を与える。社員が正規であろうと非正規で
あろうと問題の本質に変わりはない。会社は
なんのために存在するのかである。

 会社は社員の労働によって支えられる。資
金は株主から提供される。どちらが会社にと
って大切かの議論は不毛である。現在は明ら
かに株主尊重に傾いている。株主尊重ぶりは
やや行き過ぎで、まずそこに問題ありだ。

 本質はなんといっても人間を大切にする発
想の欠如だ。「失業や解雇は犯罪である」と
かつて高橋是清は断じた。その名セリフは死
語となった。会社の経営がおかしくなって税
金による救済に頼りながら、経営者が巨額の
給与を手にするシステムも、オバマ大統領が
いうように「恥知らず」である。

 それがまかり通るのは、そうした企業の集
合からなる経済社会システムそのものがおか
しいと思われてくる。それを支える「強欲資
本主義」にメスを入れなければならない。人
間の犠牲の上に経済が立ち直り始めたら、そ
こにまた「強欲資本主義」が復活するような
予感がする。いまこそ真犯人を究明しよう。

 
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東京・日比谷公園の派遣村。今年元旦に撮影。「使い捨てカイロ」を並べたテーブルの背景に「労働者を使い捨てにするな」との怒りの言葉が並ぶ。「使い捨てカイロ」と「使い捨て人間」が同居する冷え冷えとする公園の朝だった。
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第435回 感じるほかない世界

2009/01/27 20:13
 ストレスってなんだろう。きびしいストレ
スとか軽いストレスなどともいう。ストレス
の強弱を計る基準などない。でもストレスが
多くの病気の原因になると考えられる。それ
はいまでは常識である。

 医学的にはストレスが強いときは、高揚し
て交感神経が優位になる。ストレスが弱いと
逆に副交感神経が優位になり、リラックスし
た気分になる。「ストレスをためないで」と
よくいわれる。そうかといってストレスゼロ
(現実にはありえない)で、朝から晩まで副
交感神経が優位だとそれも不正常だという。

 軽いストレスはむしろあったほうがよいと
いわれるのはそのためだ。問題は冒頭の部分
に戻る。ストレスを数字化できないとすれば
その強弱は医者にもわからない。結局、患者
が自分で感じ取るしかない世界だろう。

 医学の分野では医療機器を使っても、医者
がカンを働かせてもわからなことだらけらし
い。「気」もまさにそうだ。医師から気を送
られた患者がガタガタ震え始めたとの話を聞
いた。同じ医師から気を感じたことがない私
は「鈍感なのですか」と聞くと「いや、元気
な人は感じないのです」と慰められた。

 科学とはいえない世界だが、気をもらって
病気を治した人が現実にいる。だから「非科
学的」と切って捨てるわけにはいかない。科
学で説明できないことは自然や人間の世界に
は少なくない。科学優位の現代では「非科学
的」「反科学」といわれたら致命的になりか
ねない。「無科学の世界」に近いと感じる。

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2008年7月、私が登った中国・黄山の飛来石。奇岩、奇山で有名な黄山だが、猛暑の季節の難行苦行だった。そして奇岩のシンボルというべき飛来山に到達して生き返った。生気が体内に流れ込んでくる。これが「気」なのかと瞬間に感じた。
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第434回 「2者択1」から脱却できるか

2009/01/25 13:36
 「中立は非道徳的」といったのは第2次大
戦後の日本の型の地図を描いたダレス米国務
長官。冷戦を戦っているアメリカとソ連のど
ちらかにつけ、中立や非同盟をかかげたイン
ドやエジプトはけしからん、との意味だ。

 その強気はベトナム戦争の敗北で大挫折に
至った。ポスト・ベトナム時代、アメリカは
すっかり萎縮した。海外軍事介入主義の後退
である。南北アメリカ世界の穴グラに閉じこ
もりそうに萎縮した。そこからアメリカを引
っ張り上げようとしたのがレーガン。就任直
後から反ソ・反テロを大きくかかげた。

 シルベスター・スタローンを起用した「強
いアメリカ」を高揚させる映画が次々につく
られ、善と悪で世界を線引きをする2元論が
復活した。流れはブッシュ前政権のイラク侵
攻でピークに、そして敵を増やして挫折。

 2元論は日本でも流行した。郵政民営化に
賛成か反対かを迫った小泉政治はいま批判の
さなかにある。改革反対派は抵抗勢力として
切って捨てた。政治だけではない。マスコミ
の世論調査はいつも「00政権を支持するか
どうか」とたずねる。それが支持率として報
道されると政権の命運を左右する。

 「アメリカにつくのかテロリストにつくの
か」とブッシュが迫ったとき、私は困ってし
まった。アメリカの感情はわかる。同時にア
メリカの独善的な政策に長年月苦しんできた
反米勢力の気持もわかる。私は3つも4つも
選択肢を絞り出す。だから2者択1を迫られ
ると私は前へ踏み出せなくなるのだった。

 
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1月20日のアメリカの新大統領就任式のあと、駆け寄ってオバマ大統領と抱擁するブッシュ前大統領。米ボルチモアサン紙にのった写真から。ふたりの胸中は推測するほかない。

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第433回 情報にだまされぬ方法 

2009/01/21 09:52
 諜報と聞けばスパイ活動を連想する。日本
政府の情報収集の経験を持つ野田敬生は「諜
報リテラシー」なる造語を使う。リテラシー
とは識別し読み解く能力を意味し、諜報リテ
ラシーの必要性を力説する。

 諜報リテラシーとは、情報の源をよく吟味
し、諜報に騙されない力のことだそうだ。世
界各国の情報機関はしばしば自らが集めた情
報とその分析結果を公表する。彼らがどのよ
うにして情報を集めたかについては説明した
ことがない。説明すれば対象国はすぐ情報洩
れを防ぐ措置をとるからだ。

 任期を終えたブッシュ氏は最後の記者会見
で「心残りはイラクで大量破壊兵器が見つか
らなかったこと」と述べた。イラク攻撃の直
前、当時のパウエル国務長官も大量破壊兵器
の存在を証明しようと努力した。

 国連安全保障理事会でパウエル氏が写真や
コンピューター・グラフィックスを駆使して
熱弁を振るった姿を忘れない。その直後、私
は「パウエル証言はあやしい」とテレビでコ
メントをした。パウエル氏が示した情報の根
拠にあいまいさを感じたからだ。私は持てる
限りの諜報リテラシーを注入したのである。

 パウエル氏はブッシュ政権の1期で職を退
いた。退任の弁で「大量破壊兵器について世
界を誤解させた」と述べた。イラク攻撃消極
派の彼がなぜそんなミスを犯したのかはナゾ
である。それにしても日本のメディアには情
報源のあいまいな話が溢れ返っている。それ
を見聞して国民は誤解させられてしまう。

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野田敬生氏の著書『諜報機関に騙されるな!』の表紙の一部。2007年1月発行。ちくま新書。
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第432回 「変化の象徴」ーー大統領就任式

2009/01/16 08:35
 新大統領の就任式はアメリカの一大イ
ベント。ワシントンの議事堂で宣誓して
からペンシルベニア通りをパレードをし
てホワイトハウスに入る。あとはワシン
トン市内で祝賀パーティの連続だ。

 新大統領はパーティをいくつもハシゴ
して顔見せする。男性の招待客はタキシ
ード着用。私もその種のパーティに招か
れたことがあり、すぐ貸し衣装屋に走っ
たが、どの店でも空っぽだった。やっと
裾のあたりがほつれているのを1着見つ
け、ホチキスでとめて借り出した。

 キッシンジャー元大統領補佐官の言葉
を忘れない。「タキシードを自分で買う
のは愚かだ。毎年、体型が変わるではな
いか」。まったく同感だ。とくにキッシ
ンジャーは太鼓腹を抱えていたから。

 クリントン大統領は就任式ののち、ホ
ワイトハウスへのパレードの途中、車か
ら降りて、ヒラリー夫人と一緒に歩き始
めた。大統領が手をつなごうとしたら夫
人は偶然、反対方向を向いて応じなかっ
た。その様子からゴシップ誌はクリント
ンの夫婦関係を憶測してはしゃいだ。

 レーガン大統領の夫人ナンシーは女優
出身で派手好みだった。汚れたジーンズ
姿のカメラマンを毛嫌いするので、政府
は「パーティ取材ではカメラマンはタキ
シード、少なくともスーツとネクタイを
着用せよ」との指示を出した。貸し衣装
屋が繁盛するわけである。

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私が読売新聞に執筆したレーガン氏の大統領就任式の予告記事。「1981年1月18日」付けの赤い文字が残る。絢爛豪華が売り物の就任式で、「ジミー(地味)カーター」と呼ばれた前政権からの変化を象徴するとの見出しが的確である。オバマ就任式も「変化の象徴」となりそうだ。


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第431回 1点に見える世界観

2009/01/10 10:14
 私がエジプトで暮らしていた40年前、イ
ラクで水銀中毒事件があり、住民が死んだと
のニュースを日本で読んだ知人から、エジプ
トにいる私に「大丈夫か」と問い合わせがき
た。なぜそんな心配をするのか。

 エジプトとイラクは飛行機で1時間以上の
距離にある。知人は思ったのだろう。エジプ
トもイラクも同じ中東世界にあり、同じアラ
ブの国だ。だから同じ場所だと。つまりなじ
みの薄い地域は1点に見えるのだ。私たちの
意識と理解がそんなふうに働くことは珍しく
ない。それが大きな誤解につながる。

 昨年末、タイのプーケットにいた。小舟で
コーラル島にも行った。大津波から5周年た
って被災地の様子を見たかったのだが、印象
に残ったのはあまりに少ない観光客だ。彼ら
に津波の恐怖感は残っていないはずだ。

 経済不況もあるが、バンコク国際空港を占
拠したあの政治デモによる不安感があまりに
大きいのだ。頼りの日本人観光客も激減して
いる。ある日本人ジャーナリストは「閑古鳥
が鳴いているのではなく、閑古鳥さえ飛んで
こない」といった。バンコク中心の観光客が
減るのは、それでも理解できる。

 飛行機で1時間も離れたプーケットに政治
デモは波及していない。成田からプーケット
へのタイ航空の直行便(バンコク空港には立
ち寄らない)はバンコク空港占拠の間も欠航
したことがない。日本人にはバンコクもプー
ケットも同じ1点にしか見えないのだ。日本
人の意識はいつまで鎖国状態なのか。

 
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タイ南部プーケットの海に面したDCホテルのプールサイドは、乾期の観光シーズンにもかかわらず閑散としていた。2008/12/18撮影。私以外は画面に映っているフランス人のカップルのみ。「バンコクの騒ぎとはまったく関係ないのに」とホテル関係者は頭を抱えていた。
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第430回 ナゾ多き人間にとまどう医療

2009/01/07 10:48
 「セカンド・オピニオン」という言葉があ
る。ひとりの医師の診断には間違えがあるか
も知れないので、別の医師にも意見を聞いて
みることだ。2番目の意見といわず、3番目
や4番目の意見を聞いてもいいかなと思う。

 新年の新聞広告に「全身転移がんで『余命
わずか』と告げられながらも4年過ぎて元気
一杯に生きる』闘病記」とある。内容は読ん
でいないが、「余命わずか」の診断が誤りだ
ったことはわかる。そんな例はときどき見聞
する。もし第2、第3の医師に相談したらど
んな診断を下していたかも興味がある。

 長寿県のトップはいまや沖縄県から長野県
に移った。長野のひとに聞くと「かなり以前
から減塩運動をしてきたから」と答える。つ
まり塩分は取らないほうがいいのか。医療の
著書も多い人気医師は別の見方をする。

 「塩分は体に溜めこむと悪い。コーカサス
地方の長寿村では積極的に塩をとる。よく働
いて汗をかき、塩分を出すので塩分を補充し
なければならない。汗や尿で塩分を外に出し
たら次に塩分をとる。それが健康の秘訣」と
いうのだ。さらにいう。「減塩運動で高血圧
患者が増えたとの統計報告もある」と。

 医師たちの間でも、「食事は3食きちんと
とれ」「場合によっては朝食は抜いたほうが
いい」と見解が分かれる。人間にはナゾの部
分が多いのだ。『縄文人追跡』の著者小林達
雄によれば、縄文人の過半数は15歳までに
死んだそうだ。ナゾだらけの人間の寿命をの
ばす努力は間違いなくは進んでいるわけだ。

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縄文文化の研究で業績のある小林達雄氏の著書の表紙。遺跡に残された縄文人骨から縄文人の生き方や考え方を追及している。
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第429回 選挙、ああ選挙

2009/01/06 09:01
 1945年、ヤルタ会談の帰途、米国のフ
ランクリン・ルーズベルト大統領はスエズ運
河に停泊する米巡洋艦上でサウジアラビアの
アブドル・アジーズ国王と会談した。ここで
大統領は重大なアラブ寄りの約束をした。

 「パレスチナ政策を決めるときはかならず
アラブと相談する」と。2か月後、彼は急死
してしまう。これが今日の中東混迷への転換
点だった。後継の大統領トルーマンは48年
の大統領選挙を有利にするため、パレスチナ
の土地にイスラエを建国する政策に傾いてゆ
く。もちろん「アラブと相談」せずにだ。

 トルーマンの有名な言葉が残る。「自分に
はアラブ系の有権者がいない。ユダヤは票に
なるが、アラブは票にならない」。よくも言
い切ったと思う。1948年のイスラエル建
国宣言の15分後に米国はこれを承認した。

 政治家にとって落選すれば「ただの人」に
なってしまうから、選挙を重視するのはあた
りまえではあるが、イスラエル承認は国際問
題であり、ここに米国の国内政治とイスラエ
ル・パレスチナ問題が構造的にかみあったと
いえる。米国では選挙のたびに候補者は国内
のユダヤ票とイスラエルに笑顔を振りまく。

 米国の次期大統領オバマも次期国務長官ヒ
ラリー・クリントンもイスラエルとの関係は
良好である。ただしイスラエルのガザ攻撃が
「過剰すぎる」との国際世論が高まってきた
らブッシュ政権と同じ「イスラエル擁護」一
辺倒でいいのかとの自省も働こう。多様性を
売りにするオバマ外交の試金石となる。

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米巡洋艦上で会談するフランクリン・ルーズベルト大統領(右)とサウジアラビアのアブドル・アジーズ国王。米国の外交官経験者のための雑誌『アメリカン・フォーリン・サービス・ジャーナル』の1945年4月号から転用。左側の手前は通訳、その先はリーヒイ大統領首席補佐官(提督)。
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第428回 リストラ危機よりひどい風景

2009/01/01 16:51
 元旦を迎えて思い出すのが阪神・淡路大震
災だ。私は1995年1月17日の震災の被
災者である。神戸のポートアイランドにいて
被災し、多くのものを目撃した。終戦直後の
風景に似ているなと幾度も思った。

 2009年元旦、都心の日比谷公園を歩い
た。見たいものの一つはリストラされた人た
ちに対するテント村である。大晦日の夜、1
00人収容予定のテントに130人ほどがつ
めかけて満杯となった。実行委員たちの寝る
場所が無くなり「徹夜して過ごした」と委員
の一人は淡々と語った。

 支援者のなかに阪神・淡路大震災の被災者
もいた。「あの時の方がひどかった」とうな
づきあった。三宮の小さな公園の風景を忘れ
ない。排泄の様子は惨澹たるもので「恥も外
聞もなく」と言えばわかってもらえそう。

 日比谷公園にはトイレがあった。支援者が
餅つきをし、お汁粉やキナコ餅をつくり就職
斡旋の相談所も設けられた。阪神・淡路大震
災では誰もが「放り出された」感じ。震災か
らしばらくは誰も手を差し伸べてくれず、被
災者は自分を支えるだけで精一杯だった。力
のある者は大阪まで歩いて食を求めた。

 リストラされた人たちは「ホームレスにな
るしかない」と嘆くが、神戸市内ではホーム
レスだらけだった。終戦直後の東京都内はホ
ームレスの方が多かった。そんな過去の大惨
事に比べると、リストラ危機は悲劇には違い
ないが、100年に一度の危機とはまだ思え
ない。下には下があるのである。

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2009年元旦、東京・日比谷公園で行われた餅つき風景。リストラされて住む家を無くした人たちに対する支援活動である。終戦直後の東京や阪神・淡路大震災直後の神戸市内の風景に比べると、ゆとりを感じさせる。
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第427回 宮崎あおいの「映像」認識

2008/12/31 20:28
 おそらく2008年に一番幸わせだった女
優は『篤姫』の主役を演じた宮崎あおい。年
末のインタビューでも「これほど思いを入れ
た役者は初めて。すべてを出し切った。これ
から何をすればよいのか」とまで回顧する。

 その彼女が「映像」と「現実」は違うもの
と語る。宮尾登美子の原作そのものがフィク
ションであり、それを脚色したの田淵久美子
の想像力豊かな手によってさらにフィクショ
ン度は高まった。当然のことである。それに
気づかずドラマのストーリーや人物像がすべ
て事実と考える視聴者は少ないはずだ。

 宮崎の言葉はそのことを語っているわけで
はない。篤姫を演じたのと前後して、宮崎は
別の仕事でアフリカのルワンダを訪問してい
る。民族紛争で悲惨な虐殺があった。予備知
識として宮崎は映画『ホテル・ルワンダ』を
見てから出発した。映画は多くの生命を救っ
たホテルマンの実話をもとにしている。

 映画から創られた宮崎のルワンダ観は現地
で覆された。「映像と現実は違う」との思い
はここに生まれた。問題は映画に限らないこ
とだ。テレビの多くの報道番組の映像も現実
を知る者にとって違和感がある。新聞記事も
直接当事者は現実との差を指摘しやすい。報
道の虚構性を忘れてはならないのだ。

 
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大津波で被害を受けてから5周年を迎えたタイ南部プーケット海岸の日没風景。2008年12月15日撮影。映像からは、のどかで美しいとしか感じられないが、街のあちらこちらに津波の後遺症は残る。それは映像を見る者はまったく気づかない。
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第426回 「妊娠でリストラ回避」の妙手失敗

2008/12/27 16:39
 リストラの風が世界で吹きまくっている
が、政府、企業経営者、正規社員、非正規
社員のそれぞれに、ある種の認識の変更を
迫っている。政府と企業経営者については
別の機会に、ここでは残り二つを考える。

 正規社員は労働組合をつくって企業側と
強い姿勢で交渉できた。その意識下に自分
たちは非正規社員とは違うとの気持ちがな
かったか。優越感はなかったか。非正規社
員のリストラの後に、自分たちのリストラ
がやってくるとの危機感はあったか、少な
くとも弱かったのではないか。

 正規も非正規も同じ危機感で対応しない
と、広く社会不安をあおって、ともに不幸
になる。正規社員の組合は賃上げを求める
動きが強いが、その賃上げ分を非正規社員
のリストラ阻止に使う度量があるべきだ。

 それが結局は正規社員にプラス作用を生
むとは考えられないか。正規労働組合のあ
り方の問題である。中国でも深刻なリスト
ラがあり、女性の場合「急いで妊娠」とい
う妙手に訴えた例があるという。中国の労
働法や労働契約法によると、妊娠期や授乳
期の女性社員を解雇できない。

 そこで上海のある企業でリストラ候補に
あがった女性があわてて妊娠した。ところ
が間もなく企業そのものが倒産し、彼女の
大胆な雇用確保策は失敗に終わった。中国
の労働市場では、女性を雇うなら子ども一
人の既婚女性を優先させる傾向がある。新
たな妊娠によるコストを嫌うからだろう。

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「リストラ対策として妊娠を急いだ中国人女性」の話題を大きく報じた『中国経済新聞』の紙面。08年12月1日付け。
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第425回 中国の前外相とトイレ談義 

2008/12/25 20:46
 中国の反日デモがあった2005年。中
国の外相は李肇星氏だった。強面の彼の印
象はとても悪かった。北京を訪問した当時
の町村外相に対して「中国は謝るようなこ
とは何もしていない」と言い続けた。

 デモ隊は北京の日本大使館や上海の日本
総領事館に物を投げつけ、一部を損壊させ
た。「愛国無罪」が彼らのスローガンであ
った。国を愛する気持ちからの行動はどん
なものでも許されるという異常な意味だろ
うが、外国公館の安全保護は公館の存在す
る国の責任だとは、外交上の常識だ。

 それを李氏が知らぬはずはなく、たぶん
対日軟弱との内部批判を恐れて強硬論を吐
いたのだろう。さる12月始め、久しぶり
で李氏の話を聞いて印象が一変した。都内
のパーティの席上でのことである。

 「麻生総理とウマが合うそうで」「麻生
さんの外相時代、トイレで連れションしな
がら大事な話をしたよ」「ジャーナリスト
時代、私もパーティで重要人物から極秘情
報を聞き出すと、トイレに駆け込んでメモ
しました」「トイレは情報のやり取りでは
大事な場所だ」。そんな会話だった。

 壇上での李氏の挨拶はユーモアにあふれ
ていた。なるほど北京大学で文学を専攻し
た人だと納得である。外相を辞したあと中
国国際友好聯絡会会長の職にある。「外相
時代よりは気楽では」「いやケンカも友好
も同じくむずかしい」と笑った。やはり日
中関係の好転が空気を和ませてくれる。

 
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2008年12月3日、東京都内でのパーティで挨拶する李肇星・前外相。麻生総理を訪ねて歓談して来た直後。まるで漫才師のようにユーモアのあるポーズが印象に残る。
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第424回 「気にするな」のタイ人

2008/12/20 00:13
 空港占拠騒ぎで世界の関心を集めたタイの
政情不安。国民分裂をはらみながらも、政権
交代で大きなヤマを越えたが、海外からの観
光客は激減した。政情不安と世界的不況の二
重苦でタイ経済は厳しい局面にある。

 不思議なことに、首都バンコクは意外なほ
ど活気づいており、タイ人の強いエネルギー
を感じさせる。とくに意外なのは、マスメデ
ィアが経済の深刻さをしつこく報道しないこ
とだ。日本の報道が連日のように「暗い、厳
しい、深刻」の3拍子でリズムをとっている
のと、まさに対照的である。

 「気にしない」「何とかなるさ」がタイ人
の気質とよくいわれる。日本のような現実直
視報道は私には理解できる。それは気分的に
人々を滅入らせているのも否定できない。と
同時にその効用もまた大きい。

 現実直視報道は政治にすばやい、効果的な
政策の実行を強く迫る効果もある。だがタイ
人のあるメディア研究者は「そうはいっても
現状克服の即効的な対策がないことははっき
りしているではないか」といい、暗い深刻報
道に全面的には同意しようとしない。そんな
メディア論も一理あると思われる。

 ただ私が日本のマスコミに違和感は持つの
は「現実は真っ暗ヤミ一色なのか」というこ
とだ。敗戦直後の日本では餓死者が続出、ヤ
ミ米購入を嫌がった裁判官も餓死した。ヤミ
米を農村で得た主婦が身体を代金にしたなど
はよく聞いた話だ。メタボが気になるいまの
日本は、まだそこまでは窮していない。

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12月19日、バンコク市内の繁華街で美女を動員して華々しく展開された車の販売ショウの模様。
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第423回 ムンバイ襲撃は「第2戦線」

2008/12/10 10:16
 ひとつの場所で戦争していて、相手の力を
分散させる時、別の場所でも戦線を開く。そ
れが第2戦線である。オバマ次期政権は戦争
の重点をイラクからアフガニスタンに移そう
としていた矢先のムンバイ襲撃である。

 アフガンからパキスタンに拡大したタリバ
ンなど反米勢力は、アフガンの米軍が増強さ
れる前に、米国のエネルギーをインドにも分
散させようとしたのが、ムンバイ襲撃であっ
たともいえる。第1戦線はアフガン、第2戦
線がインドだ。アフガンとインドで米国の存
在がきわめて大きいからである。

 インドと米国は原子力の協力協定まで結ん
でいる。米国のインドに対する信頼と、イン
ドを南アジアの最強国に育成したい意図の現
われである。アフガンとインドの間に挟まれ
たパキスタンは強い焦りを抱いている。

 米国にはアフガン、パキスタン、インドの
南アジア一帯を米国の主導の下で安定させた
い意図があるのだが、地域の強国にその仕事
の一部を肩代わりさせたい。インドこそ地域
の強国である。かつてペルシャ湾の警察官の
役目をパーレビ国王時代のイランに任せよう
と米国が最新兵器を提供したのと似ている。

 そんな米国の願望の究極の形がワシントン
で密かに議論されている。インドとパキスタ
ンは英国の支配下で一つの国家であった。い
まパキスタンをインドに吸収させ、それを米
国があらゆる手段で保障する。まるで植民地
時代の再来だが、それは英国がインドでなめ
た苦労をも米国が経験することになるが。

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パキスタン政府が拘束したモハメド・サイード。「ムンバイ襲撃を立案した」とインドが指弾したパキスタンの武装組織ラシュカレ・タイバの指導者。パキスタン政府が彼をインド政府に引き渡すかどうかはまだ不明。(英国BBCオンライン・テレビ放送の映像から)。
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第413回 ムンバイの「9・11」(4)

2008/12/06 17:56
 ムンバイ襲撃に関連して、一部のインドの
テレビ局にメールが入った。「われわれはデ
カン・ムジャヒディンである」と。デカンは
インド南部の高原の名前で、かつてそこにハ
イデラバード藩王国があった。

 藩王国はイスラムの藩王をいただき、英国
が植民地インドを放棄した時、藩王国は独立
かパキスタン帰属を望んだが、強引にインド
に編入された。イスラムの不満が内向してし
まう。インド総人口の14%にあたる少数派
のイスラム教徒は社会的に差別され、多数派
のヒンドゥ教徒との経済格差も開いた。

 「デカン・ムジャヒディン」はそうした不
満を代弁した集団を思わせる。インドの総人
口は約11億だから、イスラム教徒は日本の
総人口ほどの大勢力。彼らが被差別意識を持
てばインドの深刻な分裂要素といえる。

 インド国内のイスラム強硬派がパキスタン
に行ってパキスタンの武装勢力に合流したの
か、あるいはパキスタンの武装勢力が出身地
を隠すためにインドの地名を名乗る偽メール
を送ったのか。インド政府が当初から「襲撃
犯はパキスタンから」と強調するのは、イン
ド国内の弱点を隠したいのだろうか。

 問題のメールの発信源を辿ったらパキスタ
ン国内からだったとか、インド東部で二人の
のインド人がテロリストに携帯電話のカード
を与えたなどの情報も乱れ飛ぶ。テロリスト
は10人で9人殺害、一人だけ拘束されたと
いうが、それ以外の協力者はまったく不明で
ある。全容解明にはまだ時間がかかろう。

 
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襲撃の主舞台、タージマハル・ホテルの前でのゴミ清掃。(英国BBCオンライン・テレビ放送の映像から)。
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第412回 ムンバイの「9・11」(3)

2008/12/02 11:00
 ムンバイ襲撃に関連して、インド政府は
「テロリストにパキスタン人が含まれてい
た」との理由で、パキスタン政府に公式に
抗議した。パキスタン政府がこの事件にど
う対応するかは簡単ではない。

 すでにパキスタン政府は「政府の関与は
ない」と繰り返して主張している。パキス
タン国内はいくつにも分裂している。大き
く分ければ政府と軍部と国民だ。それぞれ
も一枚岩ではない。とくに軍部の情報機関
の一部はアフガニスタンのタリバン政権の
生みの親であり、いまも親近感を抱く。

 大多数がイスラム教徒の国民にもイスラ
ム原理主義の信奉者が少なくない。彼らの
一部はタリバン支持の軍人の支援を受けて
軍事訓練を重ね、カシミールやインド国内
で反インド活動を繰り返してきた。

 テロリストの中にパキスタン人がいたと
すれば、パキスタン政府に「国民を統括で
きなかった責任」を問うことはできるけれ
ども、政府がテロリストを使ってムンバイ
を襲撃させたとまでは責任を追及できない
と思われる。パキスタン政府による「関与
否定」はそこをさしているようだ。

 この分析にまだあいまいさがあるが、パ
キスタン政府が「関与否定」を証明する方
法は、インドの事件捜査にどこまで協力す
るか、協力できるかだ。生き残ってインド
に捕われたパキスタン人が一部の軍部や国
際組織と連携があったのかどうか。そこが
解明すべき核心である。

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襲撃されたタージマハル・ホテルの眼下に見えるインド門。(インドの新聞『タイムズ・オブ・インディア』のオンライン・ニュース動画から)。植民地時代、英国の王族がインドを訪問する時にはアラビア海からこの壮大な門をくぐって上陸してきたものだ。
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第411回 ムンバイの「9・11」(2)

2008/11/30 05:05
 ムンバイを襲ったあるテロリストは「デカ
ン・ムジャヒディン」を名乗り、また別のテ
ロリストはパキスタン系武装集団「ラシュカ
レトイバに帰属」と答えている。インド内外
のイスラム強硬派の協力作戦だったのか。

 アフガン人や、さらにアフリカのソマリア
沖で続発するイスラム系海賊が関与の情報も
ある。国籍をひとつにしぼれない多国籍集団
だったのか。インド政府が「外国の関与」を
強調するのは、インド国内におけるムスリム
に対する差別・迫害されている状況から世の
関心をそらせたい意図も感じられる。

 テロリストの反抗エネルギーの根源は、ア
フガニスタンで再台頭したタリバンが、パキ
スタン北東部との国境一帯に拠点を構築した
事実だ。そのタリバン勢力には、アフガン人
のほかパキスタン人も多数参加している。

 「パキスタン製タリバン」の新しい呼び方
もある。タリバンの新拠点には当然、アフガ
ンの欧米軍が攻撃を加え、しばしば越境して
くる。タリバンは欧米軍の重圧を跳ね返すた
めインド・ムンバイを攻撃して「第2戦線」
を開いたともいえる。欧米はアフガンのほか
インドにも深入りしているからだ。

 欧米が深入りするインドの心臓部ムンバイ
への攻撃には、多くのパキスタン人も共感し
ているはずだが、パキスタン人の内実が複雑
きわまる。タリバンを育成した軍部の一部は
政府と歩調があっていない。政府はインドと
の関係改善を望んでおり、ムンバイ攻撃には
「全く関与せず」と主張している。

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ムンバイ襲撃団を制圧したのち、朝焼けを背景に作戦を振り返るインド治安部隊の兵士たち。11月30日の英国BBCテレビ放送から。
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第410回 ムンバイの「9・11」

2008/11/28 20:08
 ムンバイ(旧ボンベイ)はニューヨークと
ロサンゼルスを合体させたような都会。金融
センターであり、また世界一の映画本数を生
み出す文芸活動または芸術活動の中心地であ
るからだ。人口1300万の大都会だ。

 ボンベイと呼ばれた時代の1960年代後
半、そこを訪ねた私はタージマハル・ホテル
に泊まった。窓から外を見下ろすと、アラビ
ア海を眺めることができ、インド門もすぐ眼
下にあった。英国の植民地時代、英国の王族
がインドを訪問する時、船からこのインド門
くぐって上陸して来たものだ。

 ホテルはとても居心地がよく、もう一度泊
まリたいホテルの筆頭にある。そのタージマ
ハル・ホテルがテロリストに襲撃された。壮
大なホテルの全景を見ると、かつて味わった
居心地の良さがよみがえってくる。

 テロリストは「デカン・ムジャヒディン」
を名乗った。ムジャヒディンは「イスラム聖
戦士」の意味。デカンはインド南部の高原の
名前。デカン高原とイスラムがなぜ結びつく
のか。かつてインド各地に君臨した藩王国は
植民地インドがインドとパキスタンへ分離独
立する際、どちらかへの帰属を迫られた。

 デカン高原にあったハイデラバード藩王国
の藩王はムスリムだったため、「独立ないし
パキスタン帰属」を望んだが、ヒンドゥ教徒
主導のインド内陸に位置したため、インド政
府の圧力でインド帰属を強いられる。そこか
らデカン高原一帯には反政府的なイスラムの
怨念が内向していったと思われる。

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11月27日夜、一部が炎上するタージマハル・ホテル。(英国BBCテレビ放送からの映像)。テロリストたちとインド治安部隊の間の銃撃戦の最中の状況である。
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第409回 「暗黙」の国際政治(2)

2008/11/27 23:16
 1999年5月、まだユーゴ紛争が激化し
ていたころだ。米軍機がユーゴスラビア駐在
の中国大使館を爆撃した。館員や大使館にい
た中国人記者など20人以上が死傷するとい
う深刻な惨事に発展した。

 当然ながら中国政府は米国を激しく非難し
た。クリントン政権下の米政府の反応は信じ
がたいものであった。「 C I A( 米中央情報
局)の地図が間違っていた」という。そんな
ことを誰が信じられようか。ユーゴ紛争への
米国の軍事介入をしつように非難していた中
国は「口封じ」のための意図的爆撃と見た。

 誤爆の背景を知るためとして、米政府は調
査委員会を設け、調査結果を翌年4月、中国
に伝えた。「標的の設定方法にミス」があっ
たとして、改めて誤爆を主張した。中国国内
では反米デモが繰り広げられた。

 欧州のメディアには「正確な誤爆」などの
表現も現われた。意図的に中国大使館への爆
撃を試み、正確に命中したが、意図的だと公
言するわけにはいかない。命中させて中国に
警告した。そして誤爆と言い張る。それが米
政府の本音ではないのか。「正確な誤爆」に
はそんな響きがある。

 さる7月、中国国際戦略学会( C I I S S )
などの研究者たちにこの問題をぶつけた。二
つの意見が交錯した。「意図的な爆撃に決ま
っている」「米軍の誤爆は珍しくない。フレ
ンドリー・ファイアを見よ」。つまりイラク
やアフガニスタンで目立つ味方同士の銃撃や
砲撃。「標的の設定方法のミス」である。

 
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北京にある中国国際戦略学会(CIISS)の門。退役軍人やこれから海外駐在武官になる研究者たちが活動している。
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第408回 「暗黙」の国際政治(1)

2008/11/19 20:26
 日本には「非核3原則」がある。核兵器を
「持たない、つくらない、持ち込ませない」
である。このうちずっと疑惑の霧に包まれて
きたのが、3番目の「持ち込ませない」であ
る。米軍が持ち込んでいるのではないか。

 明らかに「核を搭載していた軍艦」が日本
に寄港することがある。日本の港に入るとき
どこかに核兵器を置いてくる、なんてことが
あるのか。米政府は「核の所在は高度な軍事
機密」、日本政府は「米国は日本の非核3原
則を尊重すると確認しているので、日本に持
ち込むはずがない」といい続けてきた。

 これ以上、論議は深まらない。両国間には
こういう表現で切り抜けるとの了解があるの
ではないか。それが国際政治の1面だ。疑惑
はあるのに、それを追及されると困る問題で
は、暗黙のあいまい表現が珍しくない。

 アフガニスタンの米軍が反米勢力を追って
パキスタン領内まで越境攻撃しているとの問
題がある。ワシントン・ポスト紙は「米国と
パキスタンの両政府の暗黙の了解」説を報じ
ている。越境攻撃にパキスタン政府は抗議を
続ける。米国は越境攻撃を否定し続ける。と
いう暗黙の了解が9月に成立したという。

 この報道に対してパキスタン政府は「そん
な合意は存在しない。全く根拠のないウソ報
道だ」と主張する。暗黙の了解があったのが
事実とすればパキスタン政府は窮地に立たさ
れる。越境攻撃がさらに増えれば、パキスタ
ン国民の反米機運が一挙に高まる。米国もパ
キスタンも認めがたい報道なのだ。

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1971年の第3次インド・パキスタン戦争で、敗北を喫したパキスタン空軍司令官が記者会見で敗戦の弁
を語る。司令官の面前にいた私は彼の目に「悔し涙」と思われる光るものを目撃した。
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第407回 小澤征爾の「征爾」の由来

2008/11/19 09:54
 指揮者、小澤征爾の「征爾」という名が気
になっていた。むずかしい漢字を組み合わせ
ている。何を意味するのか、父親の趣味によ
るのだろうか。その疑問に答えてくれたのは
なんと中国人であった。

 10月、瀋陽を旅してきた。満州国時代の
奉天である。そこが小澤の出生地だ。歯医者
だった父親は高級陸軍軍人の板垣征四郎や石
原莞爾とも交際があった。第3子の男の子が
生まれたとき、父親は2人の軍人から1字ず
つもらって征爾と名づけたのだそうだ。瀋陽
を旅行中、私の雇った中国人がそう言った。

 なんの脈絡も無く、案内人は小澤征爾を話
題に持ち出した。流暢とは言いがたい日本語
で「板垣征四郎の征、石原莞爾の爾」などを
説明するのだが、なかなか通じなかった。日
本語の問題だけではない。

 彼にそんな知識があるとは想定していない
私には、あまりに意外な説明だったからであ
るだ。帰国後、間もなく小澤は文化勲章をも
らい、日本で大ニュースになったが、征爾と
いう名前の由来を知る日本人は少ない。戦争
中も戦後も、瀋陽には幾度も足を運んだとい
う70代半ばの知人も知らなかった。

 日本人相手の案内人だから、と言ってしま
えばそれまでだが、総じて中国人は日本のこ
とを知り、また知ろうとしている。福田内閣
の支持率が低下し始めたころ「小池ゆり子が
総理になる可能性ありや」と私に問うた中国
人もいた。で、日本人が持つ中国の政治家や
文化人についての知識はどれほどだろうか。

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瀋陽市内の中山広場に立つ毛沢東像。2008年10月撮影。毛沢東像が見下ろす先の遼寧賓館(左下)は満州国時代に日本が建設した旧大和ホテル。旧満州国のあちらこちらに日本の足跡が残っている。
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第406回 二つの故宮博物院 

2008/11/17 10:37
 「北京の故宮博物院」ーー建物は紫禁城そ
のままで見応えがあるが、展示物が実に乏し
い」。「台湾の故宮博物院」ーー建物はピカ
ピカで新しくて味が無いが、展示物はすばら
しい。とくにヒスイで彫られた白菜」。

 台北の故宮博物院の最高の目玉というべき
展示物「翠玉の白菜」。清朝期の作品で、も
とは北京の紫禁城の永和宮にあったが、国共
内戦で蒋介石の国民党軍が貴重な宝物を選ん
で台湾へ運び出した際、「翠玉の白菜」もそ
の中に含まれていた。大陸と台湾が統一され
たら、二つの博物院はどうなるのか。

 博物院も統一されて世界最高の博物院が生
まれるのか。いや二つの博物院はそのまま併
存し、観光客が相互訪問するよ。大陸でも台
湾でもそんな議論を聞く。では大陸と台湾の
統一はいつ可能になるのか。

 さる5月就任した台湾の馬英九総統は「ま
ず経済、次いで政治」が原則である。11月
上旬、陳雲林という台湾を扱う中国側の最高
位人物が台湾を訪問、経済関係は正常化した
といえる。懸案であった直接の「通商、通信、
通航」の3通がほぼ実現し、すでに大陸から
大勢の観光客が直行便で台湾へ流れ始めた。

 が、その後の政治関係を動かす展望は開か
れない。何らかの連携関係をつくり「一つの
中国」にしたい大陸側。だが台湾側はまず世
界保健機構( W H O )など国際社会に入りた
い。それは台湾独立への一歩になりかねない
と、大陸側は反対する。そこで海峡の両岸を
結ぶ橋は断絶し、そこから前へ進めない。

画像


「翠玉の白菜」ーーこれを見たいために私は台北を訪問するほど感動的な作品。緑色の上部に張り付く2匹の昆虫はキリギリスとイナゴ。これも見のがせないが、作品についてナゾも多く、それがまた人びとをひきつける。

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第405回 北朝鮮が核兵器を捨てる条件

2008/11/09 16:46
 米国民主党の政治家たちは、北朝鮮の核に
ついて日本の政府や世論とは違う見解を持っ
てきた。大きな特徴は、北の核兵器は「攻撃
用」でなく「防衛用」だとの解釈であり、彼
らの物理的脅威感はかなり弱い。

 北が核兵器を持っているとしても、米国に
到達できるだけのミサイルを持たない。北が
ミサイルを発射すれば10数分で到達する日
本とは違う。それがまず脅威感の差となって
いる。さらに根本的な差は、北が核兵器を持
った動機についての認識だ。北は外国か攻撃
される「脅威に備えた」と米国は見る。

 北朝鮮の周囲を見ると、北方のロシアや中
国はともに核武装国家。韓国と日本には米国
が「核の傘」をさしかけている。北朝鮮だけ
が核の空白スポットだった。その状況に北朝
鮮が不安を感じたのは不思議でないだろう。

 では北朝鮮が核兵器を廃棄するための条件
とは何か。核を放棄した北朝鮮の安全をどう
保障するかにつきよう。口でいうのは易く実
現はむずかしい。多くの国が北朝鮮と国交を
開き、経済的取り引きを活発にしたら、ある
程度、北の安全保障にプラスになる。だがそ
れだけでは十分とはいえない。

 国交や経済関係が正常な国同士でも、紛争
から戦争へ進んだ例は珍しくない。日米関係
にように1か国で北朝鮮の安全を保障するの
は、形式的には単純だが、他の5か国の同意
の取りつけは容易でない。複数国による安全
の枠組みづくりはさらに難題。そこに取り組
むのがオバマ次期政権の大挑戦である。

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北朝鮮・新義州にかつて建設された旧王子製紙の工場。さる10月、鴨緑江で中国の遊覧船に乗って北朝鮮側の岸に接近して撮影。いまも稼働しているのか、どの程度の稼働状態かは不明。新義州にはかつて日本人のコミュニティがあり、インフラも整備されていたというが、その後の維持管理の状況も不明である。
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